製造業になぜBCPが必要なのか、また、具体的な内容や重要なポイントは何かについて、中小企業庁のBCP策定ガイドラインをもとに詳しく解説します。
中小企業庁は、BCP策定ガイドライン「BCP策定のためのヒント~中小企業が緊急事態を生き抜くために~」により、中小企業(製造業)が緊急事態に見舞われても、会社を存続させるためのBCP対策を提示しています。なぜ、製造業にはBCPが必要なのか、BCP作成までの具体的なステップ・対策などについてまとめました。
BCPの作成には、求められる流れ、順序があり、次の10のステップを踏んでいけば、初めてのBCPでも比較的容易に作成することができます。それぞれの具体的な内容や対応策については、後半にまとめています。
大規模地震で大きな被害を受けた製造業者。あらかじめBCPを策定しており、計画的に対策も進めていたため、緊急時であっても取引先と連携しながら目標通りの事業復旧を達成することができました。
その際、BCP導入していたからこその効果、及び導入していないと想定した場合の予想される事象についてまとめたものが下の表です。これを見れば、なぜ製造業にBCPが必要なのかが理解できるでしょう。ガイドラインでは、同様に小売業のBCPの必要性についてもまとめられています。
BCP導入の効果 | BCPを導入していなかったら…… | |
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当日 | ◎アンカー固定済み、プレス機転倒せず ◎伝言ダイヤル171などで安否確認 ◎最寄りの営業所まで事情説明に行く | ●工場ではすべてのプレス機が転倒 ●ほとんどの従業員の安否確認ができず ●納品先連絡先不明、判明後も電話不通 |
数日間 | ◎従業員、3日間地域活動後、交代制 ◎原材料は当面、他企業から代替調達 ◎3日後、1か月で全面復旧可能と報告 ◎この間、遠方の協力会社で代替生産 | ●多くの従業員が1か月間、出社せず ●原材料の仕入れ元工場が全壊 ●1週間後、納品先の大企業から発注を 他会社に切り替えたとの連絡あり |
数か 月間 | ◎手持ち資金から月給や代金を支払う ◎不足の修理費用などは公的融資制度を利用 ◎1か月後、全面復旧し、受注も元に戻る | ●3か月後、設備復旧するも、受注戻らず ●会社規模縮小、従業員半数解雇 |
BCPは、緊急事態の時に会社が生き抜くための備えです。災害時には、その後の会社の存続に関係する従業員や取引先の安全確保、安否確認が必要です。復旧に長期間を要すれば、取引先の信用を失い、雇用を守れず、廃業、事業縮小を余儀なくされることも。地域に密着している企業であれば、地域への貢献もできなくなってしまいます。
BCPは、従業員の生命と会社の財産を守ることが大前提となる備えの計画です。中小企業BCP策定指針では、中小企業自らがBCP策定、運用ができるように、BCP策定指針を公表しています。
自然災害に備えるためには、まず自社が位置する地域の自然災害リスクを洗い出しておくことが大切です。国や自治体がサイト上に掲載しているハザードマップや浸水マップなど、さまざまな情報を参考にしてどんな災害でどの程度の被害が予想されるのかを確認しておく必要があります。
大規模な災害が生じると事業に与える影響は大きく、会社の存続にも関わる事態となります。自社が生き残るためには、顧客や取引先の信用や市場シェアを維持することが大切。災害下であっても、最低限、優先すべき中核事業は継続する必要があります。そのためには、平時に経営戦略としてサプライチェーンや優先取引先などを特定しておかなければなりません。
特定した中核事業について、緊急時にいつまでなら事業の復旧が見込まれるのか、目標復旧時間をあらかじめ設定しておくことも大切です。大量生産、流通を常時的に行う大企業とは違って、中小企業は顧客や取引先の合意を得られればある程度の調整を行うことも可能。その際、資金繰りの確保なども考えておかなければなりません。
緊急時でも中核事業を継続するためには、あらかじめ必要となる経営資源を把握しておくことが大切。社会インフラの復旧予測については、自治体の調査結果などを参考にすることができます。
一方、電力やガス、水道、通信などの主要ライフラインについては、非常用設備の整備とともに関係する事業者からの情報を得て、復旧までの時間や代替策を検討しておく必要があります。
緊急時の従業員の安全確保、安否確認は、雇用を守るとともに会社の生き残りを左右する大重要なものです。緊急時にどれだけのスタッフが出勤できるか、応援要員の確保はできているか、安否確認・連絡の方法は確立されているかなど、整備しておかなければならないことは数多くあります。
人以外のモノについては、自社の重要施設や生産設備などの代替とともに、ライフラインや輸送方法の代替策を確保しておくことも大切です。資金の確保についても、損害保険や共済加入状況や条件の確認、緊急時貸付制度の確認などが必要。また、緊急時に備えて、売上高1カ月分程度の資金を確保しておくことが望ましいでしょう。
事前対策の整備計画などを活用して、今後、実施すべきことを様式にまとめて文書化しておきましょう。実施すべき項目の中には、すぐにできることもあれば、予算計画を伴う中期的なスパンのものもあります。実施計画を文書化しておけば、計画的かつ適切に備えることが可能です。
災害に対応するための訓練や研修・教育はすぐにでも始められます。消防訓練や避難訓練などは、自社だけでなく組合や地域などと連携して行うとより実践的です。さらに、訓練や研修の課題により見直し、改善・改良することで、よりよいBCPに練り上げていきましょう。
設備のプロ
池田道雄
池田商会
工場は、通常の施設と比べてもエネルギー消費が大きく、災害時のエネルギー確保は、BCP対策の最優先事項のひとつと言えます。
例えば、食肉加工工場で保険会社から冷凍設備は火災保険の対象となっても加工食品は対象外と言われ、対策しない場合、想定被害総額は数億円でその対策のご相談を受けたことがあります。
一方で北海道胆振東部地震では、一般電源の電力確保をしていた薬品会社で冷蔵保存していた薬品を迅速に医療施設に届けることができたなどの事例がありました。
その他、工場に限らず浄水場や下水処理場、消防署など24時間稼働する施設や牧場、養豚場、動物園など生き物を飼育する施設、アリーナやレース場などの収容人数が多い娯楽施設など対策が急務である民間施設は実は多くあります。
規模の大小にもよりますが、
①電力確保の期間が短期なのか長期なのか
②必要電力容量
この二つの基準で発電設備の種類や機種を絞ることができるかと思います。
プロフィール
BCPマニュアル策定、BCP設備設計、設備供給、施工管理、補助金申請代行を一括して引き受ける。非常用電源においては、災害時に少なくとも72時間以上の持続可能なエネルギー供給対策を考案・提供。
防災のプロ
髙木 敏行
(株)かんがえる防災
工場での実例では、東日本大震災時の自動車メーカーと自動車マイクロコンピュータ生産会社でBCPの作成有無及び、BCPの社内浸透度の違いにより、事業再開スピードの違いが明らかに見受けられました。
一方の会社では、発災後約1ヵ月で国内すべての工場での生産再開を行い、今後の生産予定を発表することでお客様との信頼関係を維持しました。
しかし、もう一方の会社は生産中止が約3カ月続き各社の自動車生産の中断や遅れにつながりお取引先との信頼関係が失墜してしまいました。
このような事例は工場に限らず、他の機関でも発生しています
プロフィール
元消防士であり、防災資格を3種持つ(防災士【登録No.136593】、防災危機管理者【認定番号.190805】、危機管理士2級(自然災害)【登録番号N-19014】)防災のエキスパート。
災害によって失われる、人、物、時間、思い出への被害を軽減するために、必要な物を必要な形で提供するプロ。