介護施設のBCPの第一歩である停電対策は、利用者の生命や快適な生活を守るために必要不可欠。高齢者施設における非常用自家発電設備等の導入状況にも触れながら、災害時、停電時でも電力を供給することが可能な非常用電源(発電機)の種類や特徴などを紹介します。
一般財団法人 日本総合研究所が実施した高齢者施設における非常用自家発電設備等の導入状況についてまとめました。
施設・事業所において、常用自家発電機を整備している割合は4.7%、非常用自家発電設備を整備している割合は、41.4%です。一方、整備していない施設・事業所は全体の46.5%と半数近くを占めています。
定員規模別では、定員29人以下の施設・事業所では、常用:4.2%、非常用:22.4%の整備状況で、6割以上の施設・事業所で自家発電設備が未整備なのがわかります。定員30人以上の施設・事業所では、常用:5.3%、非常用:64.4%。いずれにも該当しない施設・事業所の割合は 27.1%となっています。
福祉避難所指定の有無別では、指定を受けている施設・事務所の非常用自家発電設備を整備している割合は半数を占めています。
常用・非常用自家発電設備の整備状況(定員規模別、福祉避難所指定有無別)
合計 | 施設規模 | 福祉避難所の指定 | |||
---|---|---|---|---|---|
定員29人 以下 | 定員30人 以上 | 指定を受けて いる | 指定を受けて いない | ||
回答数 | 1,890 | 1,035 | 851 | 796 | 959 |
自施設・事業所で常用自家発電設備を 整備している | 4.7 | 4.2 | 5.3 | 5.7 | 3.6 |
自施設・事業所で非常用自家発電設備を 整備している | 41.4 | 22.4 | 64.4 | 51.5 | 34.8 |
併設または敷地内(近隣)施設・ 事業所等が非常用自家発電設備を 整備し、共用・借用している | 3.2 | 4.0 | 2.4 | 2.6 | 3.5 |
停電時に、事業者から可搬式 (ポータブル型)発電機を借入できるよう 契約等を締結している | 1.3 | 1.9 | 0.5 | 0.9 | 1.8 |
その他 | 2.6 | 2.8 | 2.5 | 3 | 2.6 |
上記いずれにも該当しない (自施設・事業所では整備していない) | 46.5 | 62.5 | 27.1 | 37.6 | 52.3 |
無回答 | 3.1 | 3.9 | 2.0 | 2.8 | 2.9 |
常用自家発電設備を整備している施設・事業所に設備の種類を尋ねたところ、太陽光発電、軽油や重油などを燃料とするディーゼル式発電機がほとんどでした。
常用自家発電設備の種類(定員規模別、福祉避難所指定の有無別)
合計 | 施設規模 | 福祉避難所の指定 | |||
---|---|---|---|---|---|
定員29人 以下 | 定員30人 以上 | 指定を受けて いる | 指定を受けて いない | ||
回答数 | 88 | 43 | 45 | 45 | 35 |
太陽光発電 | 43.2 | 62.8 | 24.4 | 42.2 | 45.7 |
自家発電設備 (燃料:軽油、灯油、重油) | 39.8 | 23.3 | 55.6 | 42.2 | 37.1 |
自家発電設備 (燃料:天然ガス) | 10.2 | 0.0 | 20.0 | 13.3 | 8.6 |
自家発電設備 (燃料:LPガス) | 6.8 | 11.6 | 2.2 | 6.7 | 5.7 |
その他 | 3.4 | 2.3 | 4.4 | 4.4 | 0.0 |
無回答 | 2.3 | 2.3 | 2.2 | 2.2 | 2.9 |
非常用自家発電設備の種類では、ディーゼル式発電機が64.5%と最も多く、次いで搬式(ポータブル型)発電機の39.3%。また、UPS(無停電電源装置)を利用している施設・事業所も全体の10%以上を占めています。
定員規模でみると29人以下の施設・事業所では、ディーゼル式発電機、可搬式発電機が4割余り。一方、定員30人以上の施設・事業所では、全体の7割以上がディーゼル式発電機を整備しています。
非常用自家発電設備の種類(定員規模別、福祉避難所指定の有無別)
合計 | 施設規模 | 福祉避難所の指定 | |||
---|---|---|---|---|---|
定員29人 以下 | 定員30人 以上 | 指定を受けて いる | 指定を受けて いない | ||
回答数 | 783 | 232 | 548 | 410 | 334 |
非常用自家発電設備 (燃料:軽油、灯油、重油) | 64.5 | 43.5 | 73.4 | 67.6 | 61.4 |
可搬式(ポータブル型) 発電機 | 39.3 | 44.4 | 37.2 | 42.4 | 35.3 |
UPS(無停電電源設備) | 10.1 | 7.8 | 11.1 | 9.5 | 10.8 |
小型バッテリー | 4.5 | 7.3 | 3.3 | 4.1 | 5.4 |
非常用自家発電設備 (燃料:LPガス) | 2.7 | 4.3 | 2.0 | 2.9 | 2.4 |
電気自動車 (電動自動車) | 0.6 | 1.3 | 0.4 | 0.5 | 0.9 |
非常用自家発電設備 (燃料:天然ガス) | 0.5 | 0.4 | 0.5 | 0.2 | 0.9 |
その他 | 0.6 | 0.9 | 0.5 | 0.7 | 0.6 |
無回答 | 1.0 | 1.7 | 0.7 | 0.5 | 1.5 |
非常用自家発電設備の用途としては、照明が66.5%で最も多く、非常用コンセント、通信手段、ナースコールを除く医療機器の順で続きます。
可搬式発電機等のみの施設・事業所とディーゼル式発電機またはガス発電機を整備している施設・事業所を比較すると、上位項目は同様ですがナースコールやエレベーター、ポンプの稼働など、より幅広い用途が想定されていることがわかります。また、ディーゼル式発電機では、定格出力が大きくなるほど用途の幅が広がっていることもうかがえます。
非常用自家発電設備の想定用途(定員規模別、整備済み機器種類別、福祉避難所指定の有無別)
合計 | 施設規模 | 自家発電設備等の設置状況 | 福祉避難所の指定 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
定員 29人 以下 | 定員 30人 以上 | ディーゼル・ ガス発電機 あり | 可搬式発電機等 のみ | 指定を受けて いる | 指定を受けて いない | ||
回答数 | 783 | 232 | 548 | 541 | 236 | 410 | 334 |
照明 | 66.5 | 65.9 | 66.6 | 70.1 | 59.3 | 64.4 | 68.3 |
非常用コンセント | 55.6 | 46.1 | 59.5 | 58.6 | 49.6 | 56.3 | 54.5 |
通信手段 (携帯電話、 固定電話) | 34.0 | 33.2 | 34.5 | 36.4 | 28.8 | 33.7 | 35.3 |
医療機器 (ナースコールを 除く) | 28.7 | 18.5 | 33.0 | 27.7 | 31.4 | 28.8 | 29.6 |
冷暖房機 | 22.5 | 33.2 | 17.7 | 24.6 | 17.8 | 20.7 | 24.0 |
ナースコール | 21.5 | 13.8 | 24.5 | 28.5 | 5.9 | 23.4 | 19.2 |
エレベーター | 20.6 | 10.8 | 24.6 | 28.3 | 3.4 | 20.5 | 21.3 |
受水槽・ 高架水槽に くみ上げるための ポンプの稼働 | 20.1 | 9.1 | 24.6 | 27.7 | 3.0 | 22.0 | 18.3 |
情報システム、 サーバー | 19.7 | 15.9 | 21.4 | 22.0 | 14.4 | 19.8 | 20.1 |
調理設備 | 19.7 | 24.1 | 17.7 | 20.9 | 16.9 | 18.3 | 21.6 |
保冷設備 | 16.1 | 15.9 | 16.2 | 18.1 | 11.9 | 14.9 | 18.6 |
給湯設備 | 10.9 | 15.9 | 8.8 | 13.1 | 5.5 | 10.0 | 12.0 |
地下水を くみ上げる ポンプの稼働 | 7.0 | 5.2 | 7.8 | 8.9 | 3.0 | 7.3 | 6.9 |
浄化水槽の稼働 | 5.6 | 4.7 | 6.0 | 7.8 | 0.8 | 6.6 | 4.8 |
防犯システム | 5.2 | 4.7 | 5.3 | 6.7 | 2.1 | 5.1 | 5.1 |
その他 | 10.3 | 8.2 | 11.3 | 14.2 | 1.7 | 11.5 | 9.0 |
無回答 | 1.8 | 1.7 | 1.8 | 1.5 | 1.3 | 1.5 | 2.1 |
導入している非常用自家発電設備(ディーゼルエンジン型)定格出力別にみた想定用途
合計 | ディーゼルエンジン型定格出力 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
50KVA 未満 | 50~ 100KVA | 100~ 150KVA | 150~ 200KVA | 200KVA 以上 | ||
回答数 | 783 | 110 | 123 | 55 | 21 | 56 |
照明 | 66.5 | 61.8 | 65.9 | 83.6 | 85.7 | 85.7 |
非常用コンセント | 55.6 | 40.0 | 60.2 | 76.4 | 76.2 | 67.9 |
通信手段(携帯電話、固定電話) | 34.0 | 26.4 | 35.0 | 49.1 | 42.9 | 51.8 |
医療機器(ナースコールを除く) | 28.7 | 22.7 | 23.6 | 43.6 | 42.9 | 35.7 |
冷暖房機 | 22.5 | 16.4 | 18.7 | 27.3 | 28.6 | 39.3 |
ナースコール | 21.5 | 16.4 | 26.8 | 47.3 | 57.1 | 46.4 |
エレベーター | 20.6 | 13.6 | 30.1 | 40.0 | 61.9 | 53.6 |
受水槽・高架水槽にくみ上げるためのポンプの稼働 | 20.1 | 20.0 | 29.3 | 41.8 | 66.7 | 39.3 |
情報システム、サーバー | 19.7 | 10.9 | 22.8 | 30.9 | 47.6 | 42.9 |
調理設備 | 19.7 | 12.7 | 16.3 | 32.7 | 28.6 | 37.5 |
保冷設備 | 16.1 | 15.5 | 9.8 | 32.7 | 28.6 | 35.7 |
給湯設備 | 10.9 | 9.1 | 8.1 | 20.0 | 14.3 | 25.0 |
地下水をくみ上げるポンプの稼働 | 7.0 | 7.3 | 6.5 | 18.2 | 0.0 | 16.1 |
浄化水槽の稼働 | 5.6 | 5.5 | 4.9 | 10.9 | 19.0 | 19.6 |
防犯システム | 5.2 | 4.5 | 1.6 | 7.3 | 14.3 | 17.9 |
その他 | 10.3 | 28.2 | 11.4 | 14.5 | 14.3 | 10.7 |
非常用自家発電設備を利用した際の想定稼働時間は、「2~6時間未満」が28.1%でトップ。次いで「6~12時間未満」(17.6%)、「2時間未満」(14.4%)の順で続いています。
一方、24時間以上48時間未満の稼働を想定している施設・事業者は11.1%、48時間以上72時間未満では6.1%、72時間以上では7.9%と、長時間稼働を想定している割合は低いことがわかります。
また、若干ですが可搬式発電機のみを導入している施設・事業所よりも、ディーゼル式発電機やガス発電機を整備している施設・事業所の方が48時間以上の稼働を想定している割合が高いようです。
非常用自家発電設備の想定稼働時間(施設定員別、整備済み機器種類別、福祉避難所指定の有無別)
合計 | 施設規模 | 自家発電設備等の設置状況 | 福祉避難所の指定 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
定員 29人 以下 | 定員 30人 以上 | ディーゼル・ ガス発電機 あり | 可搬式発電機等のみ | 指定を受けている | 指定を受けていない | ||
回答数 | 783 | 232 | 548 | 541 | 236 | 410 | 334 |
2時間未満 | 14.4 | 14.7 | 14.4 | 15.0 | 13.6 | 15.9 | 13.5 |
2~6時間未満 | 28.1 | 23.3 | 29.9 | 30.7 | 22.5 | 29.3 | 26.9 |
6~12時間未満 | 17.6 | 14.2 | 19.0 | 16.3 | 21.2 | 18.5 | 17.4 |
12~24時間未満 | 11.6 | 17.2 | 9.3 | 10.5 | 14.4 | 12.9 | 10.2 |
24~48時間未満 | 11.1 | 11.6 | 10.9 | 10.7 | 12.3 | 9.8 | 12.0 |
48~72時間未満 | 6.1 | 6.5 | 6.0 | 6.7 | 5.1 | 5.4 | 7.2 |
72時間以上 | 7.9 | 7.8 | 8.0 | 8.9 | 5.9 | 7.6 | 8.7 |
無回答 | 4.1 | 5.6 | 3.5 | 2.6 | 5.5 | 2.0 | 4.8 |
災害時停電により空調が停止して、体温調節がままならない高齢者が死亡してしまう下記のようなケースがありました。
「千葉県は13日、君津市の特別養護老人ホーム「夢の郷」(定員80)に入所していた82歳の女性が12日朝、搬送先の病院で死亡したと発表した。熱中症の疑いがあるという。死亡時、施設は台風15号の影響で停電しており、冷房などが使えない状態だった。台風の通過後、県が把握した熱中症とみられる症状の死者は3人目。」
空調以外にも、喀痰吸引機、ナースコール、夜間徘徊対応センサー、その他の医療機器などが使用できなくなっても、介護施設に大きな影響を与えることになります。また、エレベーターやリフト、緊急連絡手段が使用できなくなることで、人や物の移動、避難が困難になることもあります。そのため、非常用電源を確保し、優先的に稼働させる環境を整備しておくことが必要です。
LPガス、ディーゼル、医療用蓄電池、太陽光発電などのさまざまな非常用電源(発電機)について、それぞれの特徴やよいところ、弱点について説明します。
燃料のLPガスでエンジンを回して電気をつくる発電機です。バルブやシリンダーに燃料を貯蔵でき、連続して電力供給をすることができます。
軽油を燃料として、主機関となるディーゼルエンジンを動かして電力を発生する発電機。一般的な非常用発電機として広く普及しています。
電力をバッテリーに蓄えて供給するシステムです。太陽光発電システムと併用して使用することが多く、家庭用と区別して産業用蓄電池と呼ばれることもあります。
太陽光パネルを設置することで太陽熱を電気エネルギーに変換する発電システムです。施設内の電力を賄うためには、広大な太陽光パネルの設置スペースが必要となりますが、燃料を必要としないためエコな電力源です。
設備のプロ
池田道雄
池田商会
介護施設は地理的に孤立しやすい地域に立地しているケースが多く、災害発生時に入居者を避難所などに移動することも困難なため、72時間以上のライフラインを維持することが重要となります。
一番は、電源確保ですが、空調や灯り、厨房、トイレなど災害対策をすべき設備は様々で、総合的に取り扱う設備業者は多くありません。
結果的に多くの企業が、従来通りの大きなディーゼル発電機を導入し、非常時のみしか使わない設備に多額の予算を投じているのが現状です。
手前味噌ですが、当社のような災害対策に特化した総合設備業者にご相談いただければ、施設に適した最も経済的かつ効果的なご提案をすることができます。
プロフィール
BCPマニュアル策定、BCP設備設計、設備供給、施工管理、補助金申請代行を一括して引き受ける。非常用電源においては、災害時に少なくとも72時間以上の持続可能なエネルギー供給対策を考案・提供。
防災のプロ
髙木 敏行
(株)かんがえる防災
施設の立地や災害種別により備える設備は変わることがあります。
過去の災害で停電により空調が作動せず、体温管理ができず熱中症で死亡した事例があります。
このことから施設の停電対策を行う必要があります。
停電対策のポイントはひとつの対策に頼り過ぎない事です。
オール電化の施設ではガス発電機を導入するなどバックアップ体制を構築するとよいです。
また、施設の規模・医療機器の種類に応じて必要な発電設備を選ぶ必要があります。
過去の災害事例からのリスクを知り、必要な設備を選択するためには、防災専門家へ相談することが望ましいと存じます。
プロフィール
元消防士であり、防災資格を3種持つ(防災士【登録No.136593】、防災危機管理者【認定番号.190805】、危機管理士2級(自然災害)【登録番号N-19014】)防災のエキスパート。
災害によって失われる、人、物、時間、思い出への被害を軽減するために、必要な物を必要な形で提供するプロ。