介護施設のBCP対策のために、BCP策定の現状を知るとともに、BCPの基本知識や作成の仕方などについて学ぶ方法や非常用発電設備、実際の事例などを紹介します。
社会福祉施設等におけるBCPの策定の現状について、MS&ADインターリスク総研株式会社が実施した調査のアンケートの結果、分析によりその一部を紹介します。
※令和元年9月9日(月)~令和元年10月9日(水)、全国社会福祉法人経営者協議会に加入している社会福祉施設等7,986施設にアンケート調査
件数 | % | |
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高齢者 | 1,147 | 39.8 |
障害 | 885 | 30.7 |
児童 | 251 | 8.7 |
保育所 | 556 | 19.3 |
その他 | 44 | 1.5 |
全体 | 2,883 | 100.0 |
件数 | % | |
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通所事務所 | 7 | 2.7 |
入所施設 | 250 | 97.3 |
全 体 | 257 | 100.0 |
件数 | % | |
---|---|---|
通所事務所 | 9 | 5.1 |
入所施設 | 169 | 94.9 |
全 体 | 178 | 100.0 |
件数 | % | |
---|---|---|
通所事務所 | 2 | 4.2 |
入所施設 | 46 | 95.8 |
全 体 | 48 | 100.0 |
件数 | % | |
---|---|---|
通所事務所 | 0 | 0.0 |
入所施設 | 7 | 100.0 |
全 体 | 7 | 100.0 |
調査を行った社会福祉施設等については、主な事業形態のほぼ4割を高齢者施設が占めており、次いで障害者施設が多いことがわかります。また、通所事業所・入所施設の別についてみると、いずれの事業種別においても9割以上が「入所施設」。24時間施設で過ごすため、災害時の対応を確立しておく必要があります。
件 | % | |
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はい | 717 | 24.5 |
作成中 | 392 | 13.4 |
いいえ | 1,815 | 62.1 |
全体 | 2,924 | 100.0 |
はい | 作成中 | いいえ | BCP策定率 (全体に占める「はい」の割合) | |
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高齢者 | 339 | 188 | 615 | 29.7% |
障害 | 201 | 122 | 558 | 22.8% |
児童 | 57 | 34 | 159 | 22.8% |
保育所 | 95 | 34 | 423 | 17.2% |
その他 | 10 | 8 | 26 | 22.7% |
BCPを策定、文書化しているかの問いに「はい」と答えた割合は、全体のわずか24.5%。作成中の13.4%を加えても、約6割の施設がBCPの策定を行っていない状況です。また、事業所別では、高齢者施設が最も多くて29.7%。次いで保育所が17.2%となっています。全体的になかなかBCPの策定が進んでいない状況。特に介護施設については、2024年度からBCP策定が法的に義務化されるため、早急に準備しておく必要があります。
件数 | % | |
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自力で作成した | 519 | 49.2 |
自治体や 社会福祉協議会等が 主催する研修会に参加 | 393 | 37.3 |
自治体等の 相談窓口に相談 | 31 | 2.9 |
コンサル等の 外部専門家に相談 | 44 | 4.2 |
その他 | 67 | 6.4 |
全体 | 1054 | 100.0 |
件数 | % | |
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書籍 | 151 | 30.6 |
経営協等の資料 | 158 | 32.0 |
自治体の資料 | 276 | 56.0 |
コンサル会社等の資料 | 33 | 6.7 |
その他 | 129 | 26.2 |
参考にしたものはない | 12 | 2.4 |
全体 | 493 | 100.0 |
BCP作成済み、または作成中である施設についてBCP策定支援について尋ねたところ、全体の半数に近い49.2%が「自力で作成した」と回答。支援を受けたと回答した中では、「自治体や社会福祉協議会等が主催する研修会に参加」が37.3%と高いことがわかりました。また、その他の回答では、インターネットなどを活用した情報収集、他施設で策定されたものの参考などの意見が見られました。
BCP策定に際し、参考にしたものとしては、自治体の資料が56.0%と最も多く、それぞれ約30%の「経営等の資料」「書籍」を上回っています。自治体はBCP策定支援のために、マニュアルや手引書を作成していることも多く、災害による被害想定、ハザードマップ、リスクマップなどを参考にすることも可能です。
件数 | % | |
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事業活動の中断が 重大なレベルまで 達したことが ほとんどない | 417 | 30.8 |
事業活動の 中断が発生しても 対処している | 112 | 8.3 |
優先事項ではない | 58 | 4.3 |
事業活動上の利点が 認識されていない | 23 | 1.7 |
策定したいが 専門知識が不足 | 400 | 29.5 |
策定したいが 複雑すぎる | 136 | 10.0 |
策定したいが 経営層に興味がない | 3 | 0.2 |
その他 | 207 | 15.3 |
全体 | 1,356 | 100.0 |
BCP未策定の理由として「事業活動の中断が重大なレベルまで達したことがほとんどない」を挙げた施設は30.8%。次いで「策定したいが専門知識が不足」が29.5%で全体の過半数以上を占めています。大規模災害の被害を目の当たりにして事業活動の中断を経験したことのない施設が多く、被害想定などに実感が伴っていないため、BCPの重要性を実感できていないことも理由と考えられるでしょう。
また、「専門知識が不足している」のほか、その他の回答として、「BCPを知らない」と答えた施設もみられることから、今後も、行政や関係機関などにより、施設に対する啓発、研修、支援を充実させていくことも大切であると言えるでしょう。
件 | % | |
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はい | 449 | 63.9 |
いいえ | 254 | 36.1 |
全体 | 703 | 100.0 |
件 | % | |
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年に1回以上 | 287 | 64.5 |
2年に1回 | 81 | 18.2 |
3年に1回 | 44 | 9.9 |
更新は3年以上前 | 33 | 7.4 |
全体 | 445 | 100.0 |
BCPを策定している施設に対し、定期的な検証かつ改善を行っているか尋ねたところ、「はい」が63.9%、「いいえ」が36.1%。検証・改善の頻度については、「年に1回以上」が64.5%と多く、次いで「2年に1回」が18.2%という結果に。検証、見直し、改善というサイクルが定着している施設も少なくないようです。
件数 | % | |
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地震 | 530 | 75.0 |
津波 | 64 | 9.1 |
台風・水災 | 290 | 41.0 |
雪害 | 45 | 6.4 |
その他 | 65 | 9.2 |
全体 | 707 | 100.0 |
件 | % | |
---|---|---|
はい | 695 | 98.7 |
いいえ | 7 | 1.0 |
地元の自治体では 防災マップが 作成されていない | 2 | 0.3 |
全体 | 704 | 100.0 |
施設の立地状態から最も脅威と感じる災害については、地震が75%と最も多く、次いで台風・水害が41%。その他には、土砂災害、火災、感染症拡大なども挙げられています。
自治体が発行する防災マップなどを確認しているかの問いには、98.7%のほぼ全施設が「はい」と答えています。地元の自治体で防災マップが作成されていないと答えた割合は、0.3%であり、ほぼ全ての自治体で防災マップが整備されていることがわかります。
件数 | % | |
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はい | 598 | 85.6 |
いいえ | 101 | 14.4 |
全体 | 699 | 100.0 |
件 | % | |
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会議で話し合って 決めた | 219 | 38.5 |
研修会や文献などを 参考に決めた | 157 | 27.6 |
責任者が決めた | 140 | 24.6 |
協議や検討を することなく 自然に(当然に)に 決まった | 41 | 7.2 |
その他 | 12 | 2.1 |
全体 | 569 | 100.0 |
災害時に優先して継続・復旧すべき重要業務の選定について尋ねたところ、85.6%が選定していると回答。ほとんどの施設で従業業務の選定が行われていることがわかります。
また、選定方法については「会議で話し合って決めた」とする施設が38.5%と最も多く、「研修会や文献などを参考に決めた」「責任者が決めた」と続きます。また、各部署への聞き取りやBCP関連資料を参考にして決定したという意見もみられました。
現段階では、災害拠点病院のみに法的に義務付けられているBCP策定について、2024年度からは介護施設でも同様に義務化される流れとなっています。介護施設に求められているBCP対策は、主に、災害と感染症の2つ。昨今の自然災害の頻発、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大がその背景にあると言えます。
社会福祉施設等のおよそ40%は高齢者施設であり、通所ではなく入居型施設が多いことが特徴。現在のBCP策定状況は、社会福祉施設等全体でわずか24.5%とまだまだ進んでいないことがわかります。
高齢者施設への非常用自家発電設備等の導入に関する調査では、常用自家発電設備として太陽光発電、ディーゼル式発電機、非常用発電設備として、ディーゼル式発電機、ポータブル型発電機を導入しているところが多いという結果に。また、多くの施設は48時間以上の非常用発電機の稼働を想定しないという状況もみられました。
非常用発電設備には、ディーゼル式発電機や医療用蓄電池など、さまざまな種類があります。大規模災害時には、停電が長期化する可能性もあるため、最近では72時間以上連続稼働が可能なLPガス式発電システムも注目されているようです。
介護・福祉施設は、災害があっても利用者やその家族を支えるため、継続的な介護サービスを提供する役割を担っています。また、避難福祉施設として地域に貢献することも求められており、BCPの策定はとても重要です。
東日本大震災や熊本地震、大型台風や豪雨など、実際に大規模災害に見舞われた介護・福祉施設は数多くあります。緊急時にどのような対応をとり、どんな反省点があったかを事例から学ぶことで、改めてBCP策定の重要性や見直しが大切であることに気づくことができます。
特に、水道や電気、ガスなどのライフラインの確保は施設だけでなく、地域貢献にも重要です。
BCPを策定していない介護・福祉施設は全体の6割程度を占めており、策定していない理由に「専門的な知識が不足している」「BCPを知らない」などが挙げられています。BCPコンサルタントの力を借りるのもひとつの方法ですが、厚労省の介護施設向けのBCP資料や動画を活用するのもおすすめです。
動画は総論、共通事項、サービス類型別の固有事項に分かれてシンプルかつわかりやすくまとめられています。紙資料のガイドラインは、BCPの基礎知識や策定の仕方・運用のポイントについてステップごとにまとめられているため、施設でのBCP作成の参考にすることが可能です。
介護事業者がBCP対策について考える際、介護サービスを中断させないこと、自然災害と感染症の対策の違い、必要な資源を守ること・確保することなど、様々なポイントがあります。
厚労省が介護施設向けに発信している動画から、考え方のポイントをまとめています。