内閣府や中小企業庁、国土交通省などがまとめたBCP策定運用指針や事例集を参考に、製造業のBCP対策の在り方について詳しく解説しています。
中小企業庁が示している「中小企業BCP策定運用指針」の地震災害、水害、火災の3つの災害事例を参考に、BCP導入の有無により、どれほど被害状況に差が出るのかについて説明します。
BCP導入なし企業 | BCP導入済み企業 | |
---|---|---|
想 定 | ●自動車用部品等のプレスメーカー(従業員30名)。 ●平日早朝、大規模地震が突発発生、県内の広い範囲で震度6強を観測。 | |
当日 | ●工場では全てのプレス機が転倒。 ●ほとんどの従業員の安否確認ができず。 ●納品先に連絡するが電話が通じず、その後、後片付けに追われ納品先に連絡せず。 |
●工場ではアンカーを打っていたためプレス機の転倒は免れる。 ●伝言ダイヤル171で大半の従業員の安否確認ができる、伝言のない者については近所に住む従業員に自宅まで様子を見に行かせる。 ●納品先に連絡するが電話が通じないため、最寄りの営業所まで従業員1人をバイクで事情説明に行かせる。 |
数 日 間 | ●従業員は家族の被災や地域活動のため半数が1ヶ月間、出社せず。 ●原材料の仕入れ元会社の工場が全壊、代替調達の目処が立たず。 ●1週間後、納品先の大企業から発注を他会社に切り替えたとの連絡あり。 |
●従業員に対して日頃、耐震診断済みのアパートに住むよう指導していたので家族の被災を免れる。 ●大半の従業員が、3日間は地域活動に専念、その後1ヶ月間は2/3が出社するよう交代制をとる。 ●中核事業である自動車用部品の生産復旧に最優先で取り組む。 ●原材料の仕入れ元会社の工場が全壊するが、予め話をつけていた会社から当面の代替調達を行う。 ●プレス機械調整のため、協定どおりメーカーから技術者受け入れ。 ●3日後、納品先の大企業に、目論見通り1ヶ月で全面復旧可能と報告。 ●この間、納品先の要請で、他会社(金型が互換できるようプレス機の種類を予め統一)での代替生産のために従業員を派遣。 |
数 ヶ 月 間 |
●3ヵ月後、生産設備は復旧するも、受注は戻らず。 ●プレス機械の更新のため金融機関から融資を受ける。 ●会社の規模を縮小、従業員の7割を解雇。 |
●手持ち資金により、従業員の月給、仕入れ品の支払いを行う。 ●同業組合から、復旧要員の応援を得る。 ●1ヵ月後、全面復旧し、受注も元に戻る。 ●損壊した一部プレス機械の更新は地震保険でカバー。 ●震災後、納品先の信用を得て、受注が拡大。 |
プレス機は固定することで全転倒を防げます。従業員の住まいにも配慮していたため、災害時でもその大半が出勤可能に。想定通り1ヶ月で全面復旧を果たすことができ、規模縮小、従業員7割カットを阻止することができました。
BCP導入なし企業 | BCP導入済み企業 | |
---|---|---|
想定 | ●自動車用部品等のプレスメーカー(従業員30名)。 ●工場は1階平屋建て。 ●平日、大雨が降り続き、12時に大雨・洪水警報、15時に近くの河川の水防警報、17時に工場周辺地区を対象に避難勧告が発出される。20時に堤防が決壊し、工場が約50cm浸水する。 | |
当 日 | ●大雨ではあったが、気象情報を収集することなく、通常通り操業。避難勧告も工場には伝達されず。 ●18時、従業員の大半が帰宅。自動車通勤の者が途中、道路の冠水に遭遇。電車通勤の者は駅で列車が動いていないことを知る。 ●従業員5名が残業中に工場が浸水。プレス機械、電源装置が水に浸かる。 ●社長は出張中。20時過ぎのニュースを見て、会社と従業員に電話連絡を取ろうとするが、輻輳しつながらず。 ●工場で浸水にあった従業員、帰宅途中に立ち往生した従業員は、その場で一夜を明かす。 |
●社長以下、従業員全員が、河川事務所が公表している洪水ハザードマップを見ており、工場が浸水危険地域であることを知っていた。 ●社長は、出張先から工場長に対して、気象情報に注意し、従業員を早期に帰宅させるよう指示。 ●工場長は、ラジオやインターネットで気象情報等を収集、駅に電話し列車の運行状況も把握。12時と15時、段階的に従業員を帰宅させることを決定。全員が無事、自宅に帰ることができる。 ●この間、入り口に防潮板をたてる、備品等を棚に上げるなどの浸水対策を行う。 ●社長は出張中断、16時に工場に戻るが、17時に避難勧告が出たことを町内会長から知らされ、工場長とともに近くの小学校に避難する。 ●20時過ぎに工場周辺も浸水するが、予めプレス機械や電源装置は基礎を上げていたので、重要設備の多くは浸水を免れる。 |
数 日 間 | ●市役所等が排水ポンプを手配し、2日後に排水が完了する。 ●従業員の多くは、住家が浸水し、その対応のため1週間、出社せず。 ●プレス機械と電源装置は修理が必要であり、メーカーに連絡するが、多忙を理由に対応を後回しにされる。 ●2つの協力会社も同じような被災状況。 ●顧客から、受注済みの部品の納期を尋ねられたが、目処が立たないと答えるのみ。 ●1週間後、同顧客から発注を他会社に切り替えたとの連絡あり。 |
●市役所等が排水ポンプを手配し、2日後に排水が完了する。 ●日頃、従業員には高台に住むよう指導していた。半数の住家は浸水を免れ、半数は浸水する。泥の掃き出し等、従業員同士で助け合う。 ●浸水した協力会社の復旧のため従業員を派遣。 ●一部、浸水した設備の修理をメーカーに修理を要請。 ●最重要の顧客に対し、受注済みの部品は1週間後に納品可能と連絡。 |
数 ヶ 月 間 |
●3ヵ月後、生産設備は復旧するも、受注は戻らず。 ●会社の規模を縮小、従業員の7割を解雇。 |
●1ヶ月後には、協力会社を含め、全面復旧。 ●浸水した設備の更新は水害保険でカバー。 |
従業員の安全確保、連絡手段の備えの有無が従業員の命や雇用、事業継続を左右します。また、協力会社との連携がなければ設備や電源装置の修理もままなりません。復旧しても受注が戻らず生き残りができない状況になります。
BCP導入なし企業 | BCP導入済み企業 | |
---|---|---|
想定 | ●自動車用部品等のプレスメーカー(従業員30名)。 ●夜間、工場の通用口付近で不審火と思われる出火あり。 | |
当 日 | ●周辺住民が火災を発見。119番通報する。 ●消防隊が到着、工場建屋が半焼する。 ●深夜になって消防署から社長宅に連絡が入る。 ●火災と消火水により、パソコンが損傷し、重要データが喪失。 |
●周辺住民が火災を発見。119番通報する。日頃の交流があったため、住民から社長の自宅に電話連絡が入る。 ●消防隊が到着、工場建屋が半焼する。 ●社長と会社幹部が現場に駆け付ける。重要顧客への連絡、周辺住民へのお詫びを手分けして行う。 ●火災と消火水により、パソコンが損傷し、重要データが喪失。 |
数 日 間 | ●翌日から被災状況を調べ、後片付けを始める。 ●顧客から、受注済みの部品の納期を尋ねられたが、目処が立たないと答えるのみ。 ●1週間後、同顧客から発注を他会社に切り替えたとの連絡あり。 ●データのバックアップが無かったので、その再構築に2週間を要す。 |
●翌日、被災状況を調べ、復旧の目処を顧客に連絡。 ●復旧までの間、協力会社に代替生産を要請。 ●データのバックアップを取り耐火金庫に保管していたので、システムは直ぐに復旧。 |
数 ヶ 月 間 |
●3週間後、金融機関から融資を受けて生産設備は復旧するも、受注は戻らず。 ●会社の規模を縮小、従業員の7割を解雇。 |
●2週間後に全面復旧。 ●建物と設備の復旧費用の大半を火災保険でカバー。 |
火災により、設備やパソコンなどに大きなダメージを受けたのはどちらも同じ。しかし、BCP導入済み企業では、協力会社への代替生産、データバックアップの備えがあったため、直ちに復旧することができました。
国土交通省が作成した災害発生時に想定されるシナリオの例を紹介します。地域に根差した小規模なパン工場の工場長が、大規模地震災害に見舞われたもののBCPを導入していなかったために、数々の後悔をするというもの。後悔しないために、この会社はどのような対策を取ればよかったのでしょうか。
BCPの策定において、災害時の従業員、顧客(取引先)の安全確保、安否確認は必須となります。非常時の連絡手段を確保するとともに連絡できない場合の対処法も記載しておく必要があります。また、製造業においては原料調達が生産の基本となるため、サプライチェーンとの連絡・調整体制も確立しておかなければなりません。
企業や工場は広大なオープンスペースを備えていることが多いため、災害時、地域住民の一時避難所としての機能を果たすことで地域に貢献する役割も担っています。商品であるパンの配布も喜ばれますが、あらかじめ配給者の優先順位や配給方法を整備しておく必要があるでしょう。
災害時、ライフラインが途絶することを想定したBCPの策定は必須です。通信や最低限の重要業務、照明などに電力を供給するため、非常用電源の確保が重要となります。
BCPの策定では、工場や企業がある地域の立地条件や発生する可能性の高い自然災害リスクをチェックしておきましょう。自治体と連携し、ハザードマップなどの情報を活用すれば、地域住民に安全な避難場所への誘導も可能です。
事業を継続するための対策として、遠隔地での事業継続や支援要員派遣などの計画も整備しておきましょう。普段から同業者組合や商工会などと連携を密にとり非常時の体制を確立しておけば、復旧までの時間を短縮することが可能です。
実際の会社が行っていたBCP事例からBCP対策、及び得られた効果について紹介します。
昭和33年創業、東京都及び国内外に複数の拠点を構え、情報通信機器、測定機器、分析器などのハイテク精密製品緩衝包装を専門に手掛けている会社。CAD/CAM、サンプルカッターの導入、製造ラインのコンピュータ化など、新しいロジスティクスの実現にも努めている。
2009年、新型インフルエンザのパンデミック時に人工透析液を製造している製薬会社から要請があったことにより、本格的なBCP作成に取り組む。地域特性から、首都直下型地震発生の可能性が高く、従業員の安全、事業継続性を確実に担保することを重視。全従業員にBCPポケットマニュアル及び大地震初期対応カードを配布。
災害を想定した机上訓練や手動管理切り替え訓練、バックアップ復旧訓練などを繰り返し実施。全員参加と見える化の実現のために、定期的な活動報告会議を行っている。
従業員の安全確保や事業継続・早期復旧への速やかな対応が可能。従業員、取引先からの信頼が向上し、競合他社との差別化を図ることに成功。
中小企業ながらも事業継続に関する国際規格ISO22301を取得(2012年6月)、運用しており、事業継続への取組をまとめたガイドラインを一部公開したことで、ビジネス誌を中心に多数のメディアに取り上げられている。
静岡県浜松市を拠点として、各種ばね及び関連製品や医療関連コイルの製造販売を手掛けている。ばね計算ソフト「浜松のばね屋さん」や体操床下用クッション「サタフス」など、自社オリジナル製品の販売取り扱いも多い。
地震と津波の災害が想定される地域的環境であるため、従業員の安全確保、安否確認のためのシステムを導入し、従業員の家族の安否確認を可能にした。また、社屋や機械装置の災害対策を強化するため、固定工事や県外5社と災害時の要人、物資の派遣・供給に関する相互応援協定を締結。
非常電源確保のため、太陽光発電システムを導入し、停電対策に事務所レベルで復旧が可能な小型自家発電機も設置。工場の屋上スペースは、津波の避難場所として地域住民に開放している。また、早期復旧のための対策として、県信用保証協会BCP特別保証も予約済みである。
2018年に発生した台風24号に伴い約48時間の停電が発生したが、自家発電機を活用して必要最低限の業務を継続することができた。そのため、ホームページにより工場の操業停止から復旧までの情報を顧客に発信し続けることができた。
自社のBCP対策が、県の災害対応(停電対策)の事例としてホームページで紹介されている。2ヶ月に1回のBCP委員会の開催、年1回のBCPの見直しにより、さらなる対策強化を図っている。
鳥取県倉吉市に拠点を構え、創業以来60年以上にわたって、割箸、食品容器、厨房機器調理道具、食器などを幅広く取り扱いながら外食・中食・給食産業をサポートしています。
コンサルティング会社の指導を受け、1年をかけてBCPを作成。顧客目線で業務の流れを見直し、自社の強みや弱みを明らかにして重要業務を位置づけた。震度弱以上の地震や水害、火災被害を想定したBCP冊子を全従業員に配布。
BCPの内容には「非常時は協定企業に発注する」という対策も盛り込んでいた。また、非常時に備え低圧LP式ガス発電システムを導入。BCP策定後は、年2回の防災訓練を実施していた。
生産ラインにトラブルが生じた際に、以前から付き合いのある企業と非常時の代替生産等の協定を取り交わしていたことから、協力を得て納期を守ることができた。
2016年10月に発生した鳥取中部地震で最大震度6弱の大規模地震に見舞われた。日頃の訓練を行っていたため、従業員の災害時対策に対する意識が高く、全員が適切な行動をとることができた。飲料水や食料品の備蓄に課題があることが把握されたため、今後の改善につなげることができた。
大分県の業種別BCP事例集は、モデル企業で実際に策定されたBCPをもとに作成されています。製造業については、3つの業種別BCP事例を掲載。業種に即した作成上のポイントや具体的な記入方法などが記載されており、必要に応じてダウンロードして自社のBCP作成が可能となります。
製造業BCPの一例として、大分県内の自動車関連プラスチック部品製造業の事例を紹介しています。BCP策定の進め方や必要資源の確認、災害発生時の対応フローなどについて、具体的に記載。また、県がエッセンスをまとめた事例集とは別に、モデル会社が実際に作成したBCP計画全編を参考にすることもできます。
東日本震災の教訓を活かすために、BCP策定後の訓練にスポットをあてた内容をまとめています。有事の際、BCPに沿った速やかな対応、行動をとるためには、日頃の訓練が必要不可欠。効果的な訓練を実施するためには、目的や参加者の習熟に応じた訓練方法を選択することが大切です。また、実施計画の作成にあたっては、シンプルかつリアルな被害想定により、状況付与に幅を持たせる必要があります。
一般的な理論だけでなく、実際の会社の事例が記載されているため自社BCP内容と比較することが可能。訓練は実施することだけが目的ではなく、必ず振り返りを行いBCPの改善に反映させることが大切です。
製造業にとって物資調達に関わるサプライヤーは大切なパートナー。物資が入ってこなければ設備や体制が整っていても事業を継続することはできません。資料最後の部分には、東日本大震災における対応事例が記載されています。被災したサプライヤーとのコミュニケーションの取り方や具体的なアクションなどがまとめられていることから、自社BCP作成の参考になるでしょう。
設備のプロ
池田道雄
池田商会
当社での、製造業設備導入に関する事例は以下のようなものがあります。
「こんなものも、対策が必要なんだ」と思うものもあるかもしれません。
物流会社のロジスティクス…物流システムサーバー用の電源確保
製薬・化粧品工場…薬品の保存用冷蔵・冷凍設備、クリーンルームの空調設備の電源確保
畜産農家…地下水引き上げ用の給水ポンプ、搾乳機などの設備、換気設備の電源確保と子牛の感染症対策
食肉工場…食肉保管用冷蔵・冷凍設備及び事務所電源確保
プロフィール
BCPマニュアル策定、BCP設備設計、設備供給、施工管理、補助金申請代行を一括して引き受ける。非常用電源においては、災害時に少なくとも72時間以上の持続可能なエネルギー供給対策を考案・提供。
防災のプロ
髙木 敏行
(株)かんがえる防災
「How to」の質問に対して回答がない企業が多いと感じています。
つまり、行うべき内容は理解しているけれど、どのように行なうか理解していないことがよくあります。
例えば、製造ラインの設備の復旧方法ひとつにとっても、設備メーカーと連絡がとれないことで、復旧できないなど、メーカー任せとなっていることで製造ラインをストップする選択肢を選ぶ状況をよく拝見します。
こうったことは、どのように活動するかの活動指針を記載しているアクションカードを導入することで改善されることがあります。
またアクションカード作成に伴い、社内・部内で分からない事、知らない事を共有することができます。
プロフィール
元消防士であり、防災資格を3種持つ(防災士【登録No.136593】、防災危機管理者【認定番号.190805】、危機管理士2級(自然災害)【登録番号N-19014】)防災のエキスパート。
災害によって失われる、人、物、時間、思い出への被害を軽減するために、必要な物を必要な形で提供するプロ。