BCP策定の第二段階となる「BCPの実装、点検、改善」の手順や具体的内容について解説します。策定したBCPは自社に合った形で実装し、演習を繰り返して点検、改善を図ることが大切です。
BCPの策定、展開が終わったら、次のステップとしてBCPの実装、点検、改善のステップへと進みます。第2段階となるこのプロセスの簡単なフローが下図です。
1 | BCPの実装 | BCPで明確にされた備えの強化 |
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2 | 演習プログラム の立案、実施 | 演習の実施(またはBCPの発動) |
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3 | 点検、改善 | ① 演習結果の評価 ② 演習結果に基づく改善 ③ その他の改善 |
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BCPの実装とは、BCPに規定された実施策を自社に適用することにより、いざという時に使用できる状態にしておくことです。作成されたBCPの実施策は、手順や担当を明確に決めれば有効に機能するもののほかに、実施に際して調査や費用投資が必要となるものもあります。
初動対応の計画、安全の確保、避難、日常の業務におけるリスクの元となるものの排除などについて有効。役員や従業員に対して認識向上や行動原則を浸透させることにより、実装することが可能です。
事業継続に必要となる資源の不足や備えを強化することに対して実施するもの。必要時限の実装にはコストがかかり、そのほとんどがインシデントの発生まで、長期間にわたって維持する必要があります。時間をかけて計画的に備えることにより、非常時だけでなく平常時の業務におけるコストダウンや効率化にもつながります。
例えば、ICTに関連してクラウドサービスを導入すれば、情報システムの維持コストを削減できる場合も。非常用電源の確保のために太陽光発電やコージェネレーションシステムを導入すれば、平常時の電気料金のカットや二酸化炭素排出量の削減にもつながります。
関連する資源 | BCP戦略(BCPの枠組み/対応の基本的な方向性) | 実装する具体策 |
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人的資源 | 優先事業に関連する業務について要因の多能工化(複数の業務をこなせるようにする)を図る。 | 授業員の多能工化のためにローテーションを組み、複数の業務を習得させる。 |
建物・職場 | 代替拠点を準備する。 | ×視点を代替拠点として利用できるようにする。 |
設備 | 代替拠点での生産を可能にする。 | 生産設備の分散化・生産設備の移設。 |
公共インフラ | 非常時の電力供給体制を整える。 | 太陽光発電設備の導入、コジェネレーションシステムの導入。 |
商品・原材料 | 在庫の管理は外部倉庫に委託する。 | 外部倉庫の調達。 |
情報・データ | 重要情報については複数の参照手段を準備する。 | 重要情報の電子化、または紙面での保管。 |
ICTシステム | 自社運用からクラウドサービスへ移行する。 非常時には在宅勤務が可能な環境を整える。 |
クラウドサービスの選定。 デスクトップPCからノートPCへの切り替え。 |
輸送・物流 | 自社便で最低限の輸送がまかなえるようにする。 | 自社便の運用(トラック、ドライバーの調達)。 |
協力会社・ サプライ チェーン | 1社に限定されることのない複数社購買を原則とする。 | 購買先の立地調査、複数購買先の選定。 |
緊急時には、あらかじめ選定した中核事業の継続に注力しなければなりません。普段からスタッフの多能工化を図ることで、担当スタッフ以外の応援により重要業務に集中して取り組めます。
施設・設備が被災することを想定して、代替拠点の確保や生産設備の分散化・移設を行っておくことも有効です。また、事業継続に欠かせない電力確保については、インフラや燃料に影響されない非常用発電システムを導入するといいでしょう。
商品や原材料の保管、調達については、1拠点、1社に限定しないことが大切。特にサプライチェーンについては、購買先を複数化することで調達しやすくなります。
BCPの内容やフローは、実際に実行され、会社の現状を反映することが基本となります。BCPは作成して終わりではなく、十分に練られたシナリオに沿って何度も繰り返して演習を行うことが大切です。
BCPは多くの場合、複数の計画や手順の組み合わせで成り立っており、複数の拠点が関連するものです。そのため、BCPの習熟度や社内への浸透度に応じて適切な演習方式を採用しなければなりません。
事業継続に関する演習は1回で完結できるものではなく、さまざまな想定シナリオに対応できるよう、長期的な視点から演習プログラムを策定し、取り組む必要があります。
下の表は、BCPに関する演習の種類の例を示したものです。
概要 | 演習の詳細 |
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計画のレビュー | 策定した計画のレビューを行う。 |
オフサイトでの 想定テスト | 簡単なシナリオに基づいてオフサイト(現地ではなく書面上または別の拠点)で計画の検証を行う。 |
現場での 想定テスト | 簡単なシナリオに基づいて現地で計画の検証を行う。 |
実践演習 | 適度に複雑なシナリオを利いようして1つまたは複数の計画の検証を行う。演習の参加者は本番に近い緊張感をもって参加する。 |
実践演習 (複数拠点) | 緊急時の代替サイトなども含め、複数の拠点を含めた演習を実施する。 |
組織全体での 実践演習 | 綿密なシナリオに基づき、本番さながらに演習を行う。 |
BCPの演習はただ行うだけでなく、その結果を評価し改善を図ることで、より自社の実態に応じた事業継続のための対応策を講じることができるようになります。演習を行ったら下の表のような確認項目を設けて、結果を評価し改善につなげるようにしましょう。
確認項目 | 結果 | ||
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1 | 初 動 対 応 | すべての人が計画された手順どおりに、迷うことなく行動できましたか? | |
2 | BCP対応のためのチーム編成、役割に不足はありませんでしたか? | ||
3 | 予定されていた資源(救急キット、代替施設、拠点やバックアップ機器など)は、計画通りに備えられ、有効に機能しましたか? | ||
4 | 通信機器、コミュニケーションツールは、有効に機能しましたか? | ||
5 | 非 常 時 対 応 | 代替施設(拠点や生産設備)がある場合、十分な容量・能力(収容人数や処理能力)が確保されていましたか? | |
6 | 代替施設(拠点や生産設備)がある場合、十分な容量・能力(収容人数や処理能力)が確保されていましたか? | ||
7 | 計画されたコミュニケーション(報告・連絡)が実施されましたか? | ||
8 | 参加者は十分な認識をもって行動していましたか? |
演習の結果は、採用されたシナリオ、方法などとともに正式な報告書として文書化し、参加者やステークホルダー及び経営陣に報告します。BCPの習熟度を測る指標(演習中に混乱した件数、初動対応、優先事業の再開までに要した時間など)を設定して、繰り返し演習を行うことで、変容をみることが可能です。
より実効性のあるBCPを策定するには、演習結果から得られた課題や改善点をBCPに反映させる必要があります。BCPの改善に際しては、手順の見直しだけでなく、設備・機器、拠点など新たな資源の必要性についても考慮しなければなりません。
BCPはさまざまな会社の事業に関する計画の中でも、最も困難な状況において運用される計画です。そのため、BCPにかかわる人は極度のストレス状態の中、限られた情報、時間の中で重要な判断を下さなければなりません。BCPの演習は、BCPに関して重要な役割をもつ人の認識や能力の向上を図るためにも、繰り返し行われる必要があります。
演習結果に基づく改善以外にも、以下の項目についても見直し、必要に応じた改善が必要です。除外された業務や拠点など、適用範囲による制約や事業影響度分析、及び優先事業の妥当性についても見直し、必要に応じた改善が必要です。
BCPは策定するだけで完結するものではなく、演習を繰り返すことで点検、改善を図るとともに社内に事業継続マネジメントの考え方を浸透させることが重要です。経営資源を備えるためにはコストや労力もかかりますが、演習、検証、改善のサイクルを繰り返す中で、より効率的な手段を見つけ出すことも可能です。
事業継続に向けた備えの強化は非常時の対応に強くなるだけでなく、平常時のコストカットや事業活動の効率化にもつながります。また、従業員や顧客、取引先からの評価も向上することで、平常時にも非常時にも強い会社を実現できるでしょう。
設備のプロ
池田道雄
池田商会
有事のみの運用設備は、操作方法など運用に不慣れなため、防災訓練で必ず試運転を行うなど日頃から業務プログラムに組み込み、訓練を踏まえてマニュアルを更新することが重要です。
また、有事には、操作担当者が必ず操作するとは限らないため、
不慣れでも初めて操作する人が見てわかるような簡単な操作マニュアルを設備毎に設備の側に用意しておくようにしましょう。
保守点検は、理想はメーカー推奨の保守契約を締結すべきですが、メーカー及び業者の責任回避で採算度外視の契約内容になっているケースがありますので、業者選定時に保守契約まで柔軟に対応できるかを確認するようにして下さい。
プロフィール
BCPマニュアル策定、BCP設備設計、設備供給、施工管理、補助金申請代行を一括して引き受ける。非常用電源においては、災害時に少なくとも72時間以上の持続可能なエネルギー供給対策を考案・提供。
防災のプロ
髙木 敏行
(株)かんがえる防災
BCPは常に最新の状態にしておくことが大切です。
社内では、部署の創設・職員の異動・取引先の変更・システム、設備の導入など様々な変化があると予想できます。
また法律改正などにより、災害対策の考え方が変わる場合も近年は見受けられます。
上記のような変化に対応するためには、PDCAサイクルでBCPを定期的に見直す必要があります。
組織全体で訓練などを通じて見直すことが望ましいですが、組織規模が大きくなると全体で訓練することが困難になります。
そのような場合は所属単位で定期的に訓練を行い最新の状態にするべきです。
プロフィール
元消防士であり、防災資格を3種持つ(防災士【登録No.136593】、防災危機管理者【認定番号.190805】、危機管理士2級(自然災害)【登録番号N-19014】)防災のエキスパート。
災害によって失われる、人、物、時間、思い出への被害を軽減するために、必要な物を必要な形で提供するプロ。