BCP対策の第一段階はBCPの策定です。初めてBCPに取り組む際に、どのような手順でBCPを策定すればいいのか、3つの資料をもとに具体的なフローを説明します。
BCPの策定、展開の具体的な流れを以下のように提示しています。
1 | 事業影響度分析と 適用範囲の決定 | ① 事業の影響度分析 ② BCP(事業継続計画)の適用範囲の決定 |
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2 | 事業継続 リスクシナリオ の明確化 | ① 拠点の地域に伴う事業分析(災害関連) ② 想定する事業継続リスクシナリオの明確化 |
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3 | 5つの視点で 非常時の備えを 分析し、強化 | A 業務面の分析と備えの強化 B インフラ面(建物、設備等)の分析と備えの強化 C サプライチェーン面の分析と備えの強化 D ICT(情報通信技術)面の分析と備えの強化 E パンデミック関連の分析と備えの強化 |
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4 | 初動対応計画 の策定 | ① 初動対応の優先順位の供給 -安全・健康第一 ② 初動対応計画の策定 |
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5 | BCPの策定 | ① BCP(事業継続計画)が必要な状況 ② 事前準備 -インプット情報の整理 ③ BCP(事業継続計画)の策定 ④ ボトルネック(事業継続の弱点)の特定と対応 |
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6 | BCPの 現場への 展開・教育 | ① BCP(事業継続計画)の文書の発行 ② 全従業者向けの説明会の開催 ③ 個人の認識の維持・向上 |
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BCPの適用範囲を決定するために、まず自社の事業分析を行う必要があります。適用範囲は必ずしも全社ではなく、優先順位が高い事業や製品、サービス、拠点などについて、重点的に作成しなければなりません。分析事例をいくつか紹介します。
事業名 | 売上全体に占める 割合(%) | 利益全体に占める 割合(%) | 企業ブランドへの 貢献 | |
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1 | A事業 | ×× | ×× | 中 |
2 | B事業 | ×× | ×× | 高 |
事業名 | 提供する主な製品・ サービス分野 | 売上全体に占める 割合(%) | 利益全体に占める 割合(%) | |
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1 | A顧客/ ターゲット 顧客層A | ○○○ | ×× | ×× |
2 | B顧客/ ターゲット 顧客層B | ○○○ | ×× | ×× |
同様に「製品・サービス」「営業拠点」「生産拠点」「物流サービス」などの影響度を分析します。会社全体の事業に占める非常時の影響度を把握することで、BCPを重点的に作成しなければならないターゲット(適用範囲)を明確にすることが可能となります。
大まかな適用範囲が決まったら、下記のようにより詳しく整理し絞り込むことが大切です。
組織名 | ○○事業所 |
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拠点名、場所 | ○○市○○区 |
優先すべき事業名、 製品・サービス分野名 | 自動車業界向けICTハード・ソフトの 企画、開発、製造、サービス |
選定理由 | 会社の売上、利益の3分の1を占める。 海際に立地し津波のリスクが高い。 |
災害に関して、拠点の地域に伴うリスクとの関連性を調査します。
関連性 | ||||
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小 | 中 | 大 | ||
過去 | 歴史を振り返ると、震度5強以上の地震が発生したことがある。 | |||
将来 | 行政から、大地震が発生する可能性の情報が出ている。 (例:首都圏直下型地震、南海トラフ巨大地震等) |
関連性 | ||||
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小 | 中 | 大 | ||
過去 | 歴史を振り返ると、津波が迫ったことがある。 | |||
将来 | 海に近く、海抜が低く、被害の可能性が高い。 海に直結した河川に近く、津波が迫る可能性が高い。 |
関連性 | ||||
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小 | 中 | 大 | ||
過去 | 崩落や地滑りが発生したことがある。 | |||
将来 | 山、湖沼、海を造成した土地の付近であり、崩落や地滑りの可能性が高い。 |
関連性 | ||||
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小 | 中 | 大 | ||
過去 | 風水害の大きな被害が発生したことがある。 | |||
将来 | 河川に近い。堤防が決壊すると浸水する。都市型水害の可能性が高い。 |
関連性 | ||||
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小 | 中 | 大 | ||
過去 | 自社や近隣で大規模火災が発生したことがある。 | |||
将来 | 自社や近隣で火災・爆発につながる危険物を大量に保有している。 |
関連性 | ||||
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小 | 中 | 大 | ||
過去 | 自社や近隣で落雷被害が発生したことがある。 | |||
将来 | 落雷発生時は、対策が十分ではないため過電圧、過電流の被害の可能性が高い。 |
関連性 | ||||
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小 | 中 | 大 | ||
過去 | パンデミックが長期化した際に、役員・従業員の勤務を阻害した。 (在宅勤務・テレワークが効果的に機能しなかった)ことがある。 | |||
将来 | パンデミック時に、役員・従業員の勤務を阻害する (在宅勤務・テレワークが効果的に機能しない)可能性が高い。 |
自社のBCP適用範囲の拠点に関連性が高いリスクを洗い出した後に、行政や公的機関、研究機関などの情報をもとにリスクシナリオを明確にする必要があります。大地震発生時のリスクシナリオ事例をまとめると次のようになります。
拠点名 | ○○○事務所 |
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大地震名称 | 首都圏直下型地震、南海トラフ巨大地震等 |
被災地域 | 大きな被害を受ける地域を記載 |
地震の規模 | マグニチュード×、震度× |
発生確率 | ××年間で、××%の発生確率 |
拠点の海抜 | ×m |
浸水 | ×m ~ ×m |
津波の可能性 | 過去の被災状況及び津波が発生し 影響を受ける可能性を記載 |
出展 | 調査資料のURLや発行日を記載 |
前提条件 | 想定の前提条件を記載します |
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電気 | 災害発生の〇週間後に××%復旧 |
通信(固定電話、 インターネット) | 災害発生の〇週間後に××%復旧 |
通信(携帯電話) | 災害発生の〇週間後に××%復旧 |
上水道 | 災害発生の〇週間後に××%復旧 |
下水道 | 災害発生の〇週間後に××%復旧 |
ガス | 災害発生の〇週間後に××%復旧 |
交通 | 公共交通機関、道路の復旧の〇週間後 |
建物への入館 | 災害発生の〇週間後(被災状況の診断後) |
出展 | 調査資料のURLや発行日を記載 |
災害発生時の時期 | 勤務状況(従業員の割合) | 出社 | 在宅勤務 | 勤務不可 |
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平常時(参考) | 9割 | 1割 | 0割 |
0~3日後 | 1割 | 1割 | 8割 |
4日後~14日後 | 2割 | 2割 | 6割 |
15日後~30日後 | 3割 | 3割 | 4割 |
31日後~60日後 | 4割 | 4割 | 2割 |
次のステップとして以下5つの視点で非常時の備えを分析し、強化することが必要となります。
全ての業務をリストアップして、業務優先順位を平常時、緊急時ごとに確定。非常時には勤務者が大幅に減ることが考えられるため、その点の備えの強化を図る必要がある。
施設・設備、インフラなどをリストアップ。想定リスクシナリオから被害を分析し、非常時に備えを強化しなければならない点を明らかにする。
事業継続の大きな阻害要因となるサプライチェーン(調達先や外部委託先、物流やサービスなどの外部組織)の被災リスク及び備えに関する情報を収集・調査・分析。事前に外部と打ち合わせを行うことで備えの強化を図る。
ICT関連のリストアップを行い、被害を分析。サーバーやネットワークなど、自社事業の継続に必要となる備えの不足を強化する。
従業員、取引先スタッフの健康を損なう恐れのあるパンデミック(感染症の世界的な大流行など)リスク被害を分析。非常時の備えの不足を明確にして強化する。
緊急時対応では、大規模災害発生前後に行う行動対応(避難、救急対応など)のための、初動対応計画の策定が必要となります。一方、災害の被害が長期化する際に、事業を継続させるための非常時対応では、BCP(事業継続計画)の策定が必要です。
初動対応では、従業員の安全確保、安否確認が最優先されるため、下記のような初動対応計画を策定しておく必要があります。
初動対応計画の記載項目(例)
目的 | 記載項目(例) |
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身を守る | 現実的・効果的な身の守り方、救護方法 |
逃げる | 緊急時避難方法(避難場所、避難ルート、目標避難時間、保護具の着用等) |
自宅待機、 帰宅 | 〇出社・帰宅の判断基準(大型台風などの予測できる災害は、事前に基準に基づき自宅待機、 早めの帰宅の指示を伝達) 〇大型地震・津波発生時は、その後の余震(本震)、第2波などの発生可能性、および通勤ルートの 被災状況を確認し判断 |
簡易安否確認 | 簡易安否確認(自動が望ましい)、確認結果の集計・報告 |
情報共有 | 連絡体制、外部の情報収集方法(マスコミ、インターネットを含む)、社内の情報共有方法、 被害状況の共有 |
大規模災害が発生した際に初動対応が適切にできても、その後平常時までに戻る期間が長期化する可能性もあります。BCPは、そのような非常時の長期化に備えて策定する重要な計画です。
PCB策定に際しては、これまでに説明してきたように想定する事業継続リスクシナリオを確認し、5つの視点で非常時の備えを分析、強化することが大切です。BCPを包括するBCM(事業継続マネジメント)推進体制を決定しておく必要もあります。
非常時には、ライフラインとともに通信インフラが機能しない状況になる可能性もあります。そのため、オンライン以外の情報共有方法の検討も必要となるでしょう。
以上のような整理した情報をもとに、下記のような項目を設けてBCPを策定します。
項目 | BCPに盛り込む事項(例) |
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どのような 状況で | 〇想定した事業継続リスクシナリオの要約 〇公共インフラ復旧スケジュール(電気、通信等) ※1 非常時には、想定した事業継続リスクシナリオを 実際の被災状況に合わせて修正することから始める。 |
どこで | 〇事業拠点の組織名、場所 |
いつ | 〇日程(災害前、災害発生時、災害発生後) |
誰が | 〇どの組織が、誰が(経営層、責任者、担当者) ※2 被災して勤務できない人の割合を想定する。 |
何を | 〇非常時の実施事項 ※3 平常時とは異なる非常時の実施事項の中で、優先順位が高い事項を明確化する。 ※4 災害発生時は、時間の経過や被災状況をもとに、実施事項の優先順位、内容を見直す。 |
どのように | 〇参照文書名 ※5 非常時の実施事項を行うための参照文書名を記載する。 ※6 参照文書への記載事項(例)
勤務できない場合に同僚・他組織からの応援者が代理で業務を担当するための 必要情報が文書化されていることが望ましい。 |
目標復旧時間の達成を阻害する要因となる自社の事業継続の弱点(ボトルネック)を特定し、備えを強化しておくことも大切です。
BCPが絵に描いた餅とならないように、策定したBCPや各種調査資料などを社内で発行し、情報を共有しておくことが大切です。全従業者向けの説明会を行い、理解度テストやアンケートを実施して個人の認識の向上に努めるといいでしょう。説明会や研修会の内容を更新することで、BCPのバージョンアップとともに従業員に再認識を促すことが可能となります。
BCP策定に当たっては、緊急事態発生時に事業を継続するために必要となる情報を整理し、帳票に整理・文書化することが大切です。BCPには大きく分けて、BCPの発動フローと事業継続に必要な各種情報の帳票類という2つの要素から成り立つと考えることもできます。
緊急時の初動対応から事業復旧までの基本的な対応手順を示した図です。BCP策定の第一段階として活用することができます。
BCP(事業継続計画)の発動フローで示されている手順にそって、必要となる情報を整理、文書化すれば、事業継続に必要な帳票類を作成することができます。発動フローと各種情報の帳票類がそろえば、基本的案BCPの策定は可能です。次の表は、BCP作成に必要な帳票及び作成上の備考などについてまとめたものです。
要求度 | 様式名 | 備考 |
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必須 | BCP表紙・目次 | |
必須 | BCPの基本方針 | |
必須 | BCPの策定・運用体制 | |
必須 | 従業員携帯カード | |
任意 | 複数企業連携によるBCPの策定・運用体制 | 同業者組合等、複数の企業が連携してBCPに取り組む際の体制等を整理する。 |
必須 | 中核事業に関わる情報 | 中核事業が複数ある場合は個別に帳票を作成する。 |
必須 | 中核事業影響度評価フォーム | |
必須 | 事業継続に関わる各種資源の代替の情報 | |
必須 | 事前対策のための投資計画 | ある程度の資金が必要であることから、中長期的な整備計画を立案する。 |
必須 | 避難計画シート | |
必須 | 主要組織の連絡先 | 組織数分の帳票を作成する。 (消防、病院、インフラ企業等を優先) |
任意 | 従業員連絡先リスト 【従業員一覧】 | |
任意 | 従業員連絡先リスト 【従業員個別用】 | 従業員数分の帳票を作成する。 |
必須 | 従業員連絡先リスト 【基本情報整理用】 | 従業員連絡先リスト【従業員一覧】及び従業員連絡先リスト【従業員個別用】を利用する場合、本様式の作成は任意とする。 |
任意 | 情報通信手段の情報 | 情報通信手段ごとに帳票を作成する。 「基本コース」においては「BCPの策定・運用体制」における、通信手段の代替についての検討で代用してもよい。 |
必須 | 電話/FAX番号シート 【自社用】 | すべての電話番号を把握する必要はなく、中核事業に関連する、または、中核事業継続のために利用できると想定される番号を整理すればよい。 |
必須 | 主要顧客情報 | 主要顧客数分の帳票を作成する。 |
必須 | 中核事業に関わるボトルネック資源 【設備/機械/車両等】 | ボトルネック資源ごとに帳票を作成する。 |
任意 | 中核事業に関わるボトルネック資源 【コンピュータ機器とソフトウェア】 | 中核事業がコンピュータ機器に大きく依存しない場合は、任意で利用する。 |
任意 | 中核事業に関わるボトルネック資源 【その他の器具類】 | |
必須 | 中核事業に必要な供給品目情報 | |
必須 | 主要供給者/業者情報 【供給品目別】 | 供給品目数分の帳票を作成する。 |
任意 | 保険情報リスト 【損害補償の範囲検討用】 | |
必須 | 災害対応用具チェックリスト | |
任意 | 地域貢献活動 |
中部電力ミライズは電力会社のひとつとして、BCP策定・運用の手順などについて情報を公開しています。BCPの策定手順・運用手順を簡単なフローにまとめたものが下のフロー図。今回はBCPの策定までのプロセスに関して詳しくみていきます。
基本方針の立案に当たっては、何のためにBCPを策定するのか、その理由を明確にしておく必要があります。緊急時に最優先に守るべきことは従業員、家族の命です。安否確認や安全確保は、従業員やその家族の命を守るだけでなく、雇用を維持することで会社を守ることにもつながります。
BCP対策は、顧客や取引先などの社外からの信用を守ることにもつながります。緊急時の対応がスムーズであることは基本。また、顧客や取引先は普段から備えがあることに安心し、会社の評価が高くなります。
BCP策定に当たっては、緊急時における中核事業を選定しておかなければなりません。緊急時には、ライフラインやインフラが途絶することにより、水道や電気、通信、流通などが機能しない可能性が高くなります。また、復旧までに時間を要することも多く、元の状態に戻った際には、市場から取り残されてしまい、事業縮小や廃業を迫られることも少なくありません。
緊急時を生きのびるためには、重要商品や重要サービスだけでも継続して提供することが必要です。そのためには、自社で取り扱っている商品やサービスのなかから、売上、取引先、社会的な需要をポイントとして重要商品・中核事業を選定しておく必要があります。
重要商品・中核事業の選定を行ったら、緊急時にその事業を継続する業務課程において必要となる経営資源を洗い出しておきます。その際、緊急時、入手・確保しにくい資源を優先して洗い出すことがポイントとなります。
「人」では、緊急時に出勤できる従業員を確保できる体制づくりをしておくことが大切。受注、製造、出荷、それぞれのプロセスで必要となる従業員をリストアップしておきます。
「物」では、通信機器や原材料・部品、生産施設・設備などを確保できる体制を構築。特に原材料や部品などの調達はサプライチェーンとの関係もあるため、事前に調整しておくことが大切です。
商品の生産やサービスを提供するうえで、長期停電は大きな障害となります。中核事業に電力を供給できるよう、非常用自家発電設備を整備しておくことも重要なポイントです。
BCP策定の中でも、最も時間と労力を要する重要な手順が事前対策の検討です。自社の組織体制や業務工程などを踏まえて、繰り返し検討する必要があります。
「3.必要な経営資源の洗い出し」でも述べたように、経営資源である「人」「物」に関して、緊急時に想定されるリスクを明確にして、事前の備えを強化する必要があります。また、同様に、お金や情報に関する事前の対策にも備えておきましょう。
緊急時、想定される経営資源のリスクと事前対策の例をまとめると以下のようになります。
緊急時の統括責任者または代理責任者は、早急かつ的確な意思決定をして全社的な指示を出さなければなりません。緊急事態発生時の指示内容とその内容に対して設備担当者が行うべき対応内容には、緊急事態発生当日、数日後では違いがあります。地震を想定した緊急時対応を例にみてみましょう。
緊急事態が発生した当日には、従業員、顧客の安全確保、安否確認が最優先されます。設備担当者は、避難誘導、非常用電源の動作確認とともに、被災した従業員や顧客の救護、連絡、応急処置に必要な電源の確保に対応。通電火災などの二次災害への対応も必要です。
災害等への緊急対応がある程度落ち着いたら、事業継続への対応がメインとなります。設備・施設・機器の被害状態を確認し、重要商品(中核事業)の提供が可能か否かを判断。重要データの確認も行いながら、できる限り中核事業の継続に務めます。
取引先に対しては、できるだけ早く非常用電源設備を使用して対応できる、商品やサービスの量・内容、納期などの連絡・調整が必要です。平常時から行政や自治体、各業界団体と連携しておけば、電力供給などへの対応がスムーズに行えるでしょう。また、必要な資金の確保のために、ある程度の売上金のストックや、保険加入も検討しておくべきです。
緊急時の体制整備では、当日からその後数日にかけて電力確保が大きな課題となります。停電機関は3日以上と想定して、連続稼働が可能であり、燃料の備蓄がしやすいLPガス発電システムなどを備えておくと安心です。
自社のBCP策定の参考となる業種別のBCP作成のポイント例を示します。
項目 | 製造業のポイント |
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基本方針 の立案 | 生活必需品や食料品など、社会機能の維持に関わる商品は、継続して提供することが社会から 求められています。そのため、基本方針および重要商品(中核事業)の検討にあたっては、 あなたの会社で製造している商品の社会的な位置づけも踏まえ検討することが重要となります。 |
必要な 経営資源の 洗い出し |
重要商品(中核事業)の提供の継続を考えるうえで、その商品を生産するための施設・設備は必要な 経営資源として挙げられます。 また、設備の稼動に特殊なスキルやプログラム(情報)が必要な場合もあり、経営資源を洗い出す際は、 「どのようなスキルを持った人材やプログラム(情報)が必要なのか」も把握しましょう。 |
事前対策 の検討 |
緊急時に機械設備を確保することができたとしても、それを動かすことができる資格やスキルを持つ 従業員がいなければ、事業を継続することが困難になります。そのため、重要商品(中核事業)に かかる資格やスキルに関する所持状況を一覧表などに整理し、資格やスキル所持者が少ないものに関しては、 代わりの要員を育成するよう取り組んでいくことが重要となります。 |
緊急時の 体制整備 |
地震や情報セキュリティ問題により工場や機械設備が受けた影響が軽微の場合、影響を受けた部分を 修繕することで、復旧が可能となります。しかし、工場の倒壊、機械設備の稼動プログラムの 修復不可能など、影響が大きく早期の復旧が難しくなる場合があることも考慮しなければなりません。 復旧が困難な場合、通常とは異なる拠点(自社の別拠点、同業他社・顧客の工場の間借り など)で商品を 代替生産することが有効となります。そのため、事前対策検討時には、どのように代替生産をおこなうのか についても考えておくことがポイントとなります。 |
項目 | 卸売業・小売業のポイント |
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基本方針 の立案 | 生活必需品や食料品など、社会機能の維持に関わる商品は、継続して提供することが社会から 求められています。そのため、基本方針および重要商品(中核事業)の検討にあたっては、 扱っている商品の社会的な位置づけも踏まえることが重要となります。 さらに店舗内にいるお客さまの安全確保もあわせて考える必要があります。 |
必要な 経営資源の 洗い出し |
卸売業、小売業は、緊急時でもいかに商品を確保するのかが大変重要となります。そのため、 「商品の調達に関わる協力会社(商品の調達元、運送会社)」「調達した商品を保管する場所(※)」 なども必要な経営資源として洗い出す必要があります。 ※重要商品(中核事業)が常温で保管できない場合は、特に保管場所の確保が重要となります。 |
事前対策 の検討 |
あなたの会社が無事であっても、重要商品(中核事業)の調達先や物流業者が重大な被害を受けたため 商品を調達できず、お客さまに販売できなくなることもあります。そのため、調達先から商品を 調達できないという事態も考慮し、調達先を複数リストアップし代替調達を検討することや、 物流業者と緊急時対応を協議するなどの対策を検討することが重要です。 |
緊急時の 体制整備 |
在庫保管場所の分散化、データ保管場所の分散化(バックアップ)もポイントとして挙げられます。 一般的に分散化への取り組みは、地震や火災などの災害への対策としてとらえられがちです。 しかし、データ保管場所の分散化(バックアップ)に関しては、情報セキュリティ問題への対策として 有効な場合もありますので、それも踏まえて検討することをおすすめします。 |
項目 | 宿泊業・飲食サービス業のポイント |
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基本方針 の立案 | たくさんのお客さまが施設内にいる業種のため、お客さまの安全・安心を第一優先に通常の業務を おこなっていると思います。BCPの基本方針を検討する際も、この延長で、お客さまの安全確保を 優先して考えることが望まれます。 |
必要な 経営資源の 洗い出し |
重要商品(中核事業)を提供し続けるためには、第一に宿泊場所などの「場所」が必要な経営資源として 挙げられます。また、ボイラーの保守管理などを外部に委託している場合は、その保守管理業者が 必要な経営資源となるため、外部委託している業務内容についても確認しておくことが重要です。 |
事前対策 の検討 |
宿泊場所などを確保するための対策を検討・実施しましょう。しかし、宿泊施設などが受ける被害が 重大となってしまった場合、宿泊場所の確保が困難となることもあります。そのため、場所が確保 できなくなってしまった時のお客さまへの対応も検討しておくことが重要です。 |
緊急時の 体制整備 |
ボイラーの保守管理などを外部に委託している場合は、外部委託先と緊急時の対応に関して協議し、 もしくは早期の事業復旧に向けてどのような対応をとるのかについて、取り決めておくことを おすすめします。 |
項目 | 医療・福祉のポイント |
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基本方針 の立案 | 緊急時においても事業を継続することが社会的に求められています。また、地震などの災害が 発生した時は、需要が高まることも考えられます。さらに、業種特性上、施設内にたくさんの人が いる場合が多いと考えられるため、「社会的要請に応えること」および「お客さま(患者)の安全を 守ること」を、基本方針の中でも優先的に考えることが望まれます。 |
必要な 経営資源の 洗い出し |
治療や介護には、多量の水が必要となります。加えて、飲料水、洗浄用水など、患者の生命・ 生活の維持にも多くの水が必要となります。そのため、医療資格者・介護資格者、治療や介護を おこなう場所(スペース)などに加え、「水」も必要な経営資源(物)のひとつとして洗い出すことが 重要となります。 |
事前対策 の検討 |
優先度を踏まえて診療科目順に対応することは、日ごろの業務内で経験していると思われますが、 緊急時には優先度の高い診療に必要となる医療機器や電源、薬品が確保できなくなることも考えられます。 そのため、自家発電機の設置、精製水の備蓄など、ライフラインの信頼性を高めるとともに、 医薬品の調達手順についてもあらかじめ検討しておくことが望まれます。 事前に医薬品卸売業者や医師会との連携も考えておきましょう。 危機時に患者のレセプトデータを紛失することも業務再開に大きく影響しますので、 データのバックアップなども事前の対策として必要となります。 |
緊急時の 体制整備 |
福祉施設については、利用者の人命をいかに守るかがポイントであり、 避難経路の確保や感染予防策の実施などが重要となります。 |
設備のプロ
池田道雄
池田商会
想定リスクに対応するための数値目標や条件の設定がないため、各設備の導入時の担当者のさじ加減で選定されます。大規模災害時、運用する設備は複数あるため、難易度が跳ね上がり、パニック状態の現場でさらにトラブルを生みます。
また、設備導入の担当者にとって、イニシャル及びランニングコスト削減は至上命題で、災害リスクに対する数値目標や条件設定がない災害対策用設備は往々にしてコストカット候補にリストアップされます。
発電機のメンテナンス不備などは、指標がないために現場判断で行わず、いざという時に稼働しなかった代表例です。
結果的に中途半端な投資は無駄になり、機能不全による損害や責任を企業が追うことになります。
プロフィール
BCPマニュアル策定、BCP設備設計、設備供給、施工管理、補助金申請代行を一括して引き受ける。非常用電源においては、災害時に少なくとも72時間以上の持続可能なエネルギー供給対策を考案・提供。
防災のプロ
髙木 敏行
(株)かんがえる防災
立地・社員数・業種・施設・設備など全て同じ企業は存在しません。
つまり同じマニュアルは存在しません。
BCPや防災マニュアルは自社で作ることを基本としていますが、BCPや防災マニュアルひな形の一部を変更したマニュアルを採用している組織をよくみます。
このマニュアルは作っただけのマニュアルで使えないマニュアルです。
使えるマニュアルとは組織の防災診断を行いその結果必要な対策(他機関との協力体制など)が記載されているテーラーメイドのマニュアルです。
自社のみで災害対策を考える傾向にありますが、協力体制を他機関と築いていき、被害を軽減すべきです。使えるマニュアルを作成するためには専門家の知見が必要です。
プロフィール
元消防士であり、防災資格を3種持つ(防災士【登録No.136593】、防災危機管理者【認定番号.190805】、危機管理士2級(自然災害)【登録番号N-19014】)防災のエキスパート。
災害によって失われる、人、物、時間、思い出への被害を軽減するために、必要な物を必要な形で提供するプロ。