学校BCP対策で重要となるのは、災害時に避難所として機能を果たせるかということ。学校の防災機能保有状況の現状や公立学校施設整備費補助金を活用した設備導入についてまとめました。
公立学校施設は、台風や豪雨、地震などの自然災害時その他で、自治体が指定する避難所となっていることがほとんどです。災害の規模によっては、長期間避難生活を継続することもあります。学校が避難所として機能を果たせるようなBCP対策をしているのか、文部科学省がまとめた「避難所となる公立学校施設の防災機能に関する調査」結果を分析してみました。
各防災機能を保有する学校数 | ||
---|---|---|
備蓄倉庫 | 23,693 (78.1%)※6 |
[72.0%] |
飲料水 | 22,377 (73.7%) |
[66.4%] |
非常用 発電機等 |
18,468 (60.9%) |
[53.4%] |
LPガス等 | 17,341 (57.1%) |
[ - ] |
災害時 利用通信 |
24,529 (80.8%) |
[77.2%] |
断水時の トイレ |
17,707 (58.3%) |
[49.5%] |
※6 ( )内は避難所に指定されている学校数30,349に対する割合。
避難所に指定されている学校のうち、確保している防災機能として最も達成率が高かったのは、毛布や食料などを備蓄する倉庫、そして災害時利用通信です。災害時利用通信については、学校においてICTを活用した情報活用能力の育成が重視されているため、ハード、ソフト、ネットワーク環境が整備されていることが整備状況の良さに関係していると言えるでしょう。
一方、最も整備されていない防災機能はLPガス等。LPガスは施設内に燃料を備蓄することができ、災害時に強いことが大きな特徴です。災害時に熱源として炊き出しや暖房などに活用できるだけでなく、非常用発電機としても機能します。
調査結果によると、この非常用発電機の整備状況もあまり進んでいません。病院、介護施設などのような緊急性はないとしても、災害時には照明や冷暖房、セキュリティシステムなどに電力を確保することが必要です。
小中学校※1 | |||
---|---|---|---|
避難所 指定 学校数 (校) |
保有 学校数 (校) |
割合 (%) |
|
備蓄倉庫 ※7 |
27,149 | 21,762 | 80.2 |
飲料水 ※8 |
20,459 | 75.4 | |
非常用 発電機等 ※9 |
16,601 | 61.1 | |
LPガス等 ※10 |
16,016 | 59 | |
災害時 利用通信 ※11 |
22,423 | 82.6 | |
断水時の トイレ ※12 |
16,263 | 59.9 |
※1:義務教育学校・中等教育学校(前期課程)を含む
※7:備蓄倉庫や他の用途と兼用した備蓄スペースを設置している学校のほか、学校の近隣に設置してある学校、民間事業者等との協定等により備蓄体制を確保している学校を含む(飲料水のみの協定等の場合は「飲料水」に含む)
※8:耐震性貯水槽やプールの浄水装置、井戸等を設置している学校のほか、民間事業者等との協定等により飲料水の確保をしている学校やペットボトル等を備蓄している学校を含む
※9:自家発電設備(可搬式発電機を含む)や災害時に利用可能な太陽光発電設備等の再生可能エネルギー、蓄電池のほか、民間事業者等との協定等により自家発電設備等を優先的に利用できる学校を含む
※10:ガス設備は、災害時に利用可能な調理設備、炊き出し設備、空調設備、暖房器具等。災害時に利用可能なLPガス設備が設置されている学校や、中圧ガス配管を敷地の中まで引き込み、災害時に利用可能なガス設備が設置されている学校のほか、民間事業者等との協定等によりLPガス設備を確保している学校や、カセットコンロ及びカセットボンベ、薪やペレット等を燃料とした設備を確保しているなどの学校を含む(ガスを燃料とした自家発電設備の場合は「非常用発電機等」に含む)
※11:相互通信可能な通信設備のほか、単方向通信のみ可能な通信設備を含む
※12:マンホールトイレや、プールの水や雨水を洗浄水として使用できるトイレ(配管の工夫等により使用できる場合を対象とし、バケツリレーで使用する場合は除く)、携帯トイレ等を確保している学校のほか、民間事業者等との協定等により仮設トイレ等を優先的に利用できる学校を含む
小中学校では、IT機器やネットワーク環境の整備が進んでいることから災害時利用通信の機能を有している学校が最も多いことがわかります。また、従前から台風や大雨の避難所として利用される機会も多かったこともあり、備蓄倉庫の機能を有している学校も多いようです。
一方、全体で6割にも満たない項目がLPガス等。給食調理場や調理室以外のガス施設がない学校は多く、非常用電源としての導入はまだまだ普及していません。また、避難生活が長期化した際に、感染症の蔓延を引き起こす原因となるトイレの対応についても拡充していく必要があります。
高等学校※2 | |||
---|---|---|---|
避難所 指定 学校数 (校) |
保有 学校数 (校) |
割合 (%) |
|
備蓄倉庫 ※7 |
2,712 | 1,596 | 58.8 |
飲料水 ※8 |
1,583 | 58.4 | |
非常用 発電機等 ※9 |
1,498 | 55.2 | |
LPガス等 ※10 |
1,083 | 39.9 | |
災害時 利用通信 ※11 |
1,787 | 65.9 | |
断水時の トイレ ※12 |
1,169 | 43.1 |
※2:中等教育学校(後期課程)を含む
高等学校における防災機能の大きな特徴は、他の種別と比較してもLPガス等の整備が遅れていること。機能を有している高等学校は全体の40%にも達していません。また、非常用発電機についても55.2%と低いことがわかります。
災害時の避難所は、市区町村率が設置、管理する公立小中学校が第一に考えられていることも、整備状況の遅れにつながっているのかもしれません。今後、大規模災害が想定されているため、避難所としての防災機能を早急に整備する必要があります。
特別支援学校 | |||
---|---|---|---|
避難所 指定 学校数 (校) |
保有 学校数 (校) |
割合 (%) |
|
備蓄倉庫 ※7 |
488 | 335 | 68.6 |
飲料水 ※8 |
335 | 68.6 | |
非常用 発電機等 ※9 |
369 | 75.6 | |
LPガス等 ※10 |
242 | 49.6 | |
災害時 利用通信 ※11 |
319 | 65.4 | |
断水時の トイレ ※12 |
275 | 56.4 |
特別支援学校の設置者は都道府県であることがほとんどですが、生活の自立や心身のケアの必要な生徒が利用する学校であるため、高等学校と比較すると全体的に防災機能保有率が高いと言えます。
LPガス等の整備状況は50%未満と低いですが、非常用発電機等の設置率は75.6%と学校種別の中では最も高いものとなっています。
公立学校の設置者は各自治体であり、都道府県、市区町村の財政状況や学校数によっては潤沢な施設設備費があるとは限りません。一方、国では国庫補助金を利用した公立学校施設整備費用補助金制度を導入しています。この補助金の概要や補助金を活用して設備を導入した事例を紹介します。
公立学校施設整備補助金は、公立学校医の整備に要する経費の一部を国が補助することで教区の円滑な実施に資することを目的としています。補助の要件にはさまざまなものがありますが、校舎や屋内運動場などで構造上危険な状態にあるものの改築がメイン。建物の大規模改造に関する経費も3分の1の補助が適用されます。
学校は災害時の避難所となるため、地域・学校連携促進型及び体育施設開放促進型については備蓄倉庫を含む新築、増築に補助金が適用されます。また、複合化促進型に関する増築、改築、屋内運動場の必要面積を超えて必要となる開放部分などに関しても補助金を活用することが可能です。
単独調理場改築に際し、学校が指定避難所となっていることもあり、給食調理機器などに使用する電源に災害に強いLPガス方式を導入。省スペース化、振動への強度等を考慮し、バルクタンクにLPガスを格納できる方式を採用した。設置に際しては、鋼板の厚みや安全弁など、安全性の確保に努めた。
平常時の給食調理業務において安定した熱源供給が可能であるとともに、災害時避難所となる際には、炊き出しや暖房などへの活用が見込まれる。
今後の課題としては、調理器別に熱源の分岐を検討し、災害時のライフライン途絶への対応が必要。避難所を運営するための具体的な運用マニュアルの策定も必要である。
環境教育や節電意識の向上、災害時の避難所使用を目的として、校舎屋上に蓄電池を組み込んだ太陽光発電機を設置。廊下に切り替え盤を設置し、停電時に自動で電源が切り替わるとともに切り替え盤の下部からもコンセントで電源をとることができるようなシステムにした。
東日本大震災派生に伴う停電時に電源が使用できたため、避難所災害拠点としての活用が可能に。テレビで得た情報を避難住民に伝達することにより、混乱を回避することもできた。
今後の課題としては、太陽光発電システムの拡充を考えていたが、津波が発生した際の校舎屋上への避難を考慮して、太陽光パネルの設置について再検討が必要。また、放送設備も非常電源で使用できるようにする必要がある。
過去の大震災などの教訓から、文部科学省によって「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」が公開されています。公立学校は児童生徒の教育機関であり、災害時には地域住民の避難所にもなるという特性があります。さまざまな場面を想定する必要がありますが、児童生徒たちへの教育を止めないことを第一に考え、BCP策定をする必要があります。
大学でもBCP対策が求められています。 企業とは異なる団体ではありますが、大学も様々なデータを取り扱っていますし、大学運営のための様々なシステム・環境が構築されていますので、いざやもしもに備えた対策を講じる必要があります。 特に生徒に関連する部分は大学の信頼に関わる部分になります。生徒の未来のためにも、大学がどのようなBCP対策を講じるべきなのか、くわしく解説していますのでご覧ください。
障害のある児童は、障害特性から情報の理解や意思表示が難しかったり、危険回避行動がとれなかったりするため、避難が困難になりやすいです。それぞれの生徒の特性と予想される困難を理解し、家庭と連携しながら、必要な支援体制と対応計画や物品等の準備を行わなければなりません。ここでは、児童生徒が安全に過ごすために、特別支援学校がどのようなBCP対策を講じるべきなのか、くわしく解説していますので参考にしてください。
なぜ学校にBCP対策が必要とされているのか、その理由をいくつかご紹介しましょう。
自然災害が増えています。
かつて考えられなかったような自然災害が頻発していることから、自然災害への備えが当たり前のものとなりつつあります。
ましてや自然災害はいつ起きるか分からないものです。いつ起きても良いよう、備えておくことは企業や団体の社会的責務となりつつあります。
学校の場合、生徒を抱えています。
もしもですが、何も対策を講じておらず、災害に見舞われた際に生徒に被害が出るようなことがあれば、学校が社会的責任を負うことになります。
学校は信頼も重要です。
信頼を損ねてしまえば、以降、学校運営が成り立たなくなる可能性もあります。
このような事態を回避するために、社会的責任としてBCP対策が求められています。
自然災害が凶悪化している事態を受け、行政としてもBCP対策を行うよう要請が出ています。
自然災害が起きるまで何もせずに待つのではなく、何が起きても良いよう、平時から備えておくよう要請が出ていますので、学校としてもBCP対策を講じ、いざに備えることが求められています。
学校がBCP対策を導入するにあたって、何を考えるべきなのか、ポイントを把握しておきましょう。
学校が何よりも優先すべきは生徒に関する部分です。
生徒の生命はもちろんですが、授業、入学式や卒業式といった生徒が参加する行事は、優先順位が高いいといえます。
もちろん学校側の環境も大切ではありますが、学校は生徒がいてこそです。生徒に関する部分が「戻すことができなくなってしまった」では、学校として死活問題になりかねませんので、生徒が関わる部分はBCP対策が必須であり、優先順位も高く設定しましょう。
幼稚園・保育園の場合もまた、子供に関する部分ですが、学校と比較すると安全面への配慮が求められます。やはりまだまだ小さい子供です。自力ではできないことも多々ありますので、いざやもしもが起きた際、子供をどうするのかを最優先に考慮する必要があります。
さらには子供に付随し、その親御さんです。
幼稚園や保育園は子供、そして親御さんあってのものなので、これらの点をしっかりと考慮しておきましょう。
学校の場合、自然災害だけではなく、人的災害も考慮しておく必要があります。
代表的な人的災害といえば交通事故です。
通学・登校途中に暴走車が子供の列に飛び込むといったニュースを耳にする機会もあるのではないでしょうか。
自然災害ではないものの、子供たちにとっては大きなトラブルになります。交通事故以外にも管理の不備、環境問題といった人的災害に関しても考慮しておく必要があります。
学校がBCP対策として参考にできるものは、やはり他の学校の事例です。
企業のBCP対策も決して参考にならない訳ではありませんが、企業のBCP対策と学校のBCP対策は、目的が微妙に異なります。
入りを追求する企業と教育機関とでは目的が異なるのは当然です。そこで学校が参考にするものとして、既に実践している他の学校のBCP対策が挙げられます。
他の学校で既に実践しているBCP対策は、同じ教育機関が行っているBCP対策として参考になる部分も多いでしょう。
予算や生徒数、環境等に応じてBCP対策は変わりますので、同じ規模の学校が行っているBCP対策は、大いに参考となるでしょう。
そのため、BCP対策を行っている学校がないかチェックしてみましょう。
設備のプロ
池田道雄
池田商会
学校施設は、教員や生徒だけでなく地域住民の避難所の役割を果たす重要な施設ですが、自治体の管理体制の問題もあり、BCP対策の立案・運用の難易度が高く担当される方々からはいつも苦しそうな表情でご相談を受けます。
理由は、学校施設としてのBCP立案は教育委員会並びに学校長、地域住民の避難所施設としてのBCP立案は総務課・防災課、実際の運用は、学校関係者を教職員、地域住民を地域住民+自治体職員で行います。
ちなみに施設改修工事(建替え含む)は、教育委員会の工事担当者で主に設計士と行います。
これらすべてが、関係者で誰がイニシアチブをとってBCP対策を考えるべきかという議論がなされていないことがほとんどです。
プロフィール
BCPマニュアル策定、BCP設備設計、設備供給、施工管理、補助金申請代行を一括して引き受ける。非常用電源においては、災害時に少なくとも72時間以上の持続可能なエネルギー供給対策を考案・提供。
防災のプロ
髙木 敏行
(株)かんがえる防災
学校BCPは二点の側面から考えなくてはいけません。
一点目は生徒児童への対応です。
どのように保護者へ引き渡すのか、引き渡せない場合はどのような対応を行うかなど、生徒児童・教員の身の安全の確保について、ハード面・ソフト面の両側面から検討する必要があります。
二点目は避難所を運営・管理を行う側の対応です。
こちらの対応策は、市町村職員がメインに計画を作成します。
学校BCPは教職員と市町村担当課職員の意見交換を行う場が必須。
意見交換を行う際は、防災知識が豊富な専門家の意見を参考に行う必要があります
プロフィール
元消防士であり、防災資格を3種持つ(防災士【登録No.136593】、防災危機管理者【認定番号.190805】、危機管理士2級(自然災害)【登録番号N-19014】)防災のエキスパート。
災害によって失われる、人、物、時間、思い出への被害を軽減するために、必要な物を必要な形で提供するプロ。