BCPの改善を目的として、机上訓練を実施する企業は少なくありません。机上訓練は本当にBCPの改善に役立つのか、懐疑的に感じることもあるでしょう。しかし、机上訓練は大切です。ここでは、机上訓練の目的や手順を確認していきます。
BCPで検証したいテーマを決めた上で、災害発生のシナリオを作成し、そのシナリオに対してどのように対処するかを机上でシミュレーションする訓練のことを机上訓練といいます。部屋の中で行えるので、比較的簡単な訓練です。緊急時の対応ルールが決まった段階で行うことに意味があります。
机上訓練の目的は、策定したBCPの確認です。想定しきれていなかった事態など、抜けや漏れを訓練後に確認した上で、改善につなげます。
「どの段階でどこに連絡すればいいか」「平時とは異なる仕様での製品供給」「製品ラインナップの絞り込み」など、BCPの内容理解を深めることも、机上訓練の目的のひとつです。机上訓練で確認したことを実地訓練で生かせると、大きな安心につながるでしょう。
また、机上とはいえ時間を取って訓練することで、訓練対象者の災害に対する意識が高まります。日頃から災害時への意識を高めておくことが、いざというときの力になるでしょう。また、BCPを確認することで、対応を知識として定着させることにもつながります。
机上訓練では、策定したBCPの確認と改善が最大の目的です。より精度の高いBCPにブラッシュアップして、いざというときにスムーズな対処ができるよう備えておきましょう。
机上訓練は、ステップに従って進めていきます。思いつきのまま訓練しても、目指す目的は達成しづらいです。手順は3ステップ。ここでは、机上訓練の手順に沿って、3ステップの流れと内容を確認しておきましょう。
最初のステップは「計画と準備」です。テーマやシナリオの設定をして、訓練当日に状況説明のために配布する「状況付与票」を作成します。ここでしっかりとした計画を立てられるかが訓練の成果を左右すると言えるでしょう。
テーマ設定では、対象とする危機を決めます。地震、洪水、感染症など、事業活動に影響するリスクが高い危機の中から、今回のテーマを決めてください。訓練を通して身につけてほしいのは何かを意識して決めることが大切です。
テーマが決まったら、訓練対象者にどのような対応をしてほしいかの「骨子」を決めます。その内容にあわせて、シナリオを作成します。訓練対象者以外にも、社内調達担当役員や社外の取引先など、災害時に関係するであろう登場人物も決めておかなければいけません。災害発生の日時、自社の被害想定も決めます。
テーマとシナリオが決まったら、「状況付与票」を作成しましょう。「状況付与票」は、どのような状況かを説明するためのものですが、訓練対象者にとっては、行動の判断目安になるものです。災害時に社内、社外、そして世の中で起こることをイメージして作成してください。自社の被害はもちろん、取引先への被害も考慮する必要があります。
「状況付与票」による情報を頼りに判断しますが、あまりに情報が多いと限られた時間内で処理できないため、記載する情報は、テーマや骨子をもとに選んでください。
ここまでで計画は完成です。これらの概要は、事前に訓練対象者に対して説明しておきましょう。理解が深まった状態で効果的な訓練ができます。当然ですが、訓練の日程を決め、調整することも準備で行うべき仕事のひとつです。
訓練日がきたら実際に机上訓練の実施です。机上訓練には2種類の実施方法があります。
ひとつは「ワークショップ型」です。訓練対象者をチーム編成して、「状況付与票」で与えられた情報を元に討議してからアクションを決定するという訓練。決定事項をワークシートに記入して発表する形でおこないます。
ふたつめは「ロールプレイング型」。訓練対象者に役割を振って、各人の対応を判断してもらう訓練です。随時「状況付与票」を提示して、柔軟な対応を求めます。実際のアクションが発生するため、「連絡する場合は連絡票を書く」「電話を実際にかける」など、ルールをあらかじめ決めておきましょう。電話番号やメールアドレスの一覧を用意しておく必要もあるかもしれません。計画の段階でしっかりシミュレーションして必要になる情報はすべて用意しておきましょう。ロールプレイング型は、運営側にもコミュニケーション能力が求められます。混乱してよく分からないまま終わるということがないように、状況を随時整理しながらアナウンスしなければいけません。
どちらのタイプで訓練を実施するかは、訓練対象者の習熟度を参考にするといいでしょう。BCPに初めて触れる訓練対象者にロールプレイング型での訓練を実施しても効果が薄いかもしれません。
実施の際は、訓練対象者の行動を整理して、ある程度行動を誘導できるような情報を適切に与えることが大切です。あまり広げ過ぎたり、現実味のない状況や表現を使うと訓練の効果がでませんので、訓練の目的を絞り、目的を見失わないよう注意してください。
訓練終了後は、訓練全体を評価します。そこでBCPの不足事項などを確認してください。また、今後の検討事項も洗い出していきましょう。訓練対象者にアンケートなどを使って、今回の訓練や自分の達成度を評価してもらうと、次回以降の訓練に活かせます。
訓練を通して、想定できていなかったことが判明した場合は、評価を通してBCPのブラッシュアップにつなげていきましょう。評価で浮き彫りになった抜けや漏れも、改善につなげる大切な要素です。意外に重要なのが、ふとした「気づき」。訓練中に戸惑ったことや不明瞭だった点、疑問が生じたことなど、ささいなことを大切に検討してください。小さな「気づき」には、「報告の手続きが煩雑すぎる」「状況付与が現実的ではない」など、重要な違和感につながっていることがあります。こうしたことが、実際の災害時にネックとなりかねません。
また、外部から専門家を招いて実施すれば、客観的で専門的な意見を聞くこともできます。
見つかった課題は、「ハード」「ソフト」「スキル」に分けて分析してください。BCPの改善や訓練計画の修正などに役立ちます。