BCPの第三段階である発動、復旧について、手順や流れ、具体的な対応内容などについて詳しく解説。BCPの発動基準や復旧のための対応は、その後の事業を大きく左右するものとなります。
BCPの発動、復旧は、「BCPの策定、展開」「BCPの実装、点検、改善」に続くBCPの3つ目のステップ。その主な内容はさらに発動、実行、復旧の3つのステップに分けることができます。
1 | 初動対応および 情報収集 | ① 警報、予測情報の収集 ② 初動対応 ③ 情報収集 |
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2 | BCPの発動 | BCPの発動 |
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3 | BCPの実行 | A 体制の確認 B コミュニケーション C 記録 D 資源の確認 E 対応状況の確認 F BCPの戦略的見直し G 優先事業活動の再開 |
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4 | 事業の復旧 | ① 復旧 ② BCPの完了 |
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緊急事態が発生した際のBCP発動の手順を簡単にまとめると次のようになります。
緊急事態が発生する前から、警報や予測情報などの情報を収集し、事態に備えた対策を実施することが大切です。
緊急事態が発生した際は、従業員や顧客の安全確保を最優先で行います。救急対応や安否確認などを行い、発生した事態に関する情報を収集しましょう。
BCPは、あらかじめ設定した発動基準の条件を満たした際に発動します。BCP発動は、BCPの統括責任者などが判断を下すことが一般的です。しかし、地震や洪水などの災害の場合には、初動対応の段階で発動されている場合もあります。
BCP発動の条件例として次の2点があげられます。
災害シナリオは、「事業所在地の都道府県に超大型台風が直撃した」「事業所で大規模火災が発生した」「事業所在地で震度6以上の地震が発生した」などが例としてあげられますが、会社や地域の実態に合わせてあらかじめBCPを発動するレベルを規定しておくことが大切です。
震度6以上の大地震が発生した場合、人や物の安全確認、安全確保を行ったうえでBCP発動の判断をする必要があります。BCP発動を考慮して集中すべき4つの作業は以下の通りです。
可能であれば、重要書類を所内または所外の安全な場所に移動させます。紙書類だけでなく電子データも同様です。災害による重要書類の損傷に備えて、あらかじめ別の場所にバックアップデータを保管しておくことも大切です。
中核事業(重要事業)の継続、復旧を検討するため、事業所内外の被害状況を確認。倒壊による二次被害を防ぐため、建物の危険性をチェックすることが重要です。
施設・設備、機器の被害状況を調査。特に情報システムや通信機器が使えるかどうかを確認します。
メディアやインターネット、電話などを活用し交通インフラの混乱状況やライフラインの状況を調査。災害全体の概要を的確に把握することが大切です。
顧客、取引先、サプライチェーンなど、自社と深い関係のある関係先の被害状況を確認。直接的な影響だけでなく、間接的な影響から事業継続、復旧までの時間がかかることもあります。
BCP統括責任者や代表者は、少なくとも以上の4つの情報を踏まえてBCPの発動を決定することになります。BCPの発動は、災害発生後約4時間、長くても6時間以内を目安に行わなければなりません。全ての情報が把握できない、情報の精度が低い、という場合でもタイミングを逸することなく、発動を決定する必要があります。
BCPの発動には、「だれが」「何を」「どのように」情報を調査し、対策を判断、決定するかの役割分担が必要です。事前に組織・体制の確立やチェックリストの準備をしておくと、緊急時の現場でもスムーズな対応が可能となります。
BCP発動後24時間以内には、緊急事態対策本部を設置し、チームに分かれて対応できるよう組織することが大切です。下の表は、チーム編成及び主な役割の例を示したものです
チーム | 主な役割 |
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インシデント対応BCP戦略チーム | BCP全体を管理し、計画に含まれていない事態に対しても一貫した方針に基づき対応を決定する。経営に深く関与するメンバーの参画が必要。 |
緊急対応チーム | 発生した緊急事態への対応を支援する。避難誘導係、救護係などが該当する。 |
コミュニケーションチーム | 社内が意図のコミュニケーションおよび必要に応じてメディアなどへの情報開示を担当する。会社の方針に沿った一貫した対応を実現するため、経営メンバーの参画が必要。 |
損害評価チーム | オフィス、建物、設備などの被害状況の確認を行う。 |
ICTチーム | 情報通信システム(ICT)の被害状況を確認し、ICT機能の復旧、または発生した状況に合わせたICTシステムの運用の変更などを担当する。 |
財務チーム | BCPの実施、継続に必要な財務面の運用を支援する。当座の資金管理、現金の支払いなどの必要性に対応する。 |
調達チーム | 損害の状況などに応じて必要となる、または不足している消耗品などの調達を行う。 |
復旧チーム | あらかじめ優先順位付けされた優先事業活動の再開に向けた準備を行う。 |
BCPの実行においては、平常時に緊急時の体制及び対応チームの確立を図っておく必要があります。また、二次被害などを防ぐとともに、早期事業復旧を図るためには、まず被害状況を正確に確認することが大切です。
BCPに沿って、従業員や顧客、取引先とのコミュニケーションにより被害状況や事業再開に向けた情報を収集します。
事業所で中核事業が復旧できる見込みがあるかを確認。施設、設備、パソコンなどの機器の異常や建物の危険性などをチェックします。
社外との連絡の可否、ライフラインやインフラの状態などを確認し、災害を俯瞰的にとらえることが大切です。
取引先、サプライチェーンの被害状況を把握します。地震や台風などの局地的な災害では、自社が被害を受けていなくても、取引先やサプライチェーンが甚大な被害を受けていることも。その逆のパターンもあり、状況により事業復旧が困難になることもあります。
災害を客観的に捉えて把握した正確な情報は、メディアやネットを活用して顧客や取引先、地域住民などに発信。災害時に適切なメディア対応や情報公開ができることで、地域や取引先などからの会社の評価を向上させることにもつながります。
緊急事態に対応する中であっても、重要な発生事象、および事象への対処、決定、指示などの記録を残しておきます。特に、消耗品の購入や緊急対応のための宿泊などに関する領収書は、保険や助成金の申請などに必要な場合もあるため、記録を保管しておくことが大切です。
優先順位付けられた中核事業の活動に必要となる資源のダメージの状況及び、資源確保の度合いを確認します。資源の確保では、緊急時に新たに追加資源の購入などが必要となることも多いため、あらかじめ必要な財務資源を確保しておくことが大切です。
種 類 | 内容・事例 |
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人的資源 (要員) | 優先順位付けされた活動に従事する要員、作業者、販売員など ※1 通常時には自動化や機械化されている作業について、人手による代替手段を採用する場合には、普段よりも多くの資源を必要とすることに注意する。 |
建物・職場 | オフィス、工場、店舗など |
設備 | 生産・物流関連設備、生活関連設備(トイレ、食堂)、安全・防犯関連設備 |
公共インフラ | 電気、水、ガスなどのライフライン |
商品・原材料 | 提供される商品の在庫や優先順位付けされた製品の製造に必要な原材料など |
情報・データ | 連絡先(顧客、協力会社、各拠点、役員・従業員など)、契約書・注文情報(品物、数量、届け先)、作業に必要な手順書など |
ICTシステム | 顧客や協力会社などとの通信手段を含む情報システム ※2 リモートアクセスなど、通常とは異なる経路でのアクセス許容や増加により追加の資源が必要となる可能性にも注意が必要となる。 |
輸送・物流 | 従業員の通勤手段、商品・原材料などの物流手段 |
財務 | 緊急購入・調達のための資金を含む。当面の操業および消耗品などの購入のために必要な財務資源 |
協力会社・ サプライチェーン | 優先順位付けされた製品・サービスの供給に必要な商品や原材料などの供給者 |
緊急事態の発生から復旧までの流れは、BCPに時系列でまとめられているはずです。しかし、実際に対応していると、計画された復旧計画と実際の復旧の見込みにギャップが生まれていることもあります。常に現在の状況を把握しながら、必要に応じて優先事業活動の内容を修正することも検討することが大切です。
計画した復旧計画通りに対応が進まず目標復旧時間内での事業復旧が困難であると判断された場合には、BCP戦力の見直しを図る必要があります。
そのうえで、事業影響度の分析などに基づき順位付けされた優先事業活動(中核事業、重要業務)を再開します。その際には、被災拠点から離れた場所で事業を再開する、これまで自動化されていた処理を手動で行うなど、想定されたシナリオの中での臨機応変な対応が必要です。
緊急事態への対応がいったん落ち着き、災害などによる二次被害や被害の長期化がみられなくなった段階で、事業の復旧を行います。事業の復旧には、代替拠点や新拠点などの代替手段による事業継続の場合と、緊急事態で生じた被害を復旧して事業を再開する場合の2パターンが考えられます。
事業復旧の2つのパターンは、代替手段で事業を継続しながら本拠点での事業再開を図るための復旧を行うなど、同時並行で進められることもあります。行うべき復旧対応は以下の通りです。
すべての事業活動が再開され、緊急事態への対応が完了した段階でBCP発動の終了となります。緊急事態への対応を今後の教訓として活かすためにも、記録をもとにBCPの見直し、改善を図ることが大切です。
設備のプロ
池田道雄
池田商会
発災時の設備は、前提として建築構造物も含めて災害対策を施しておくこと、災害時に稼働可能かどうかをいち早く点検、復旧できる仕組みにしておくことが重要です。
特に電気、ガス、水回り設備は、損傷すると二次災害の原因となりますので必須項目です。
設備毎に特筆すべき注意事項はありますが、特に見落としやすい設備は、今後さらに需要が高まる太陽光発電システムです。
太陽光発電システムは、地震による建物損傷や火災が発生しても、パネルが光を受けている限り発電を止めることができず、制御システムも存在しません。
破損したケーブルから漏電して建物や水を伝って感電する事故が過去に多発しており、火災現場でも消防士の感電事故が相次いでいますが、あまり大きく報道されていないのが事実です。
レジリエンス性を高める上で重要な役割をもつ一方で、リスクを伴う設備であることをご理解いただき、被災後、建物に損傷が少しでもある場合には、専門業者による点検を徹底するなどの対策が重要です。
プロフィール
BCPマニュアル策定、BCP設備設計、設備供給、施工管理、補助金申請代行を一括して引き受ける。非常用電源においては、災害時に少なくとも72時間以上の持続可能なエネルギー供給対策を考案・提供。
防災のプロ
髙木 敏行
(株)かんがえる防災
大規模災害の経験は大きく作用します。
良い例は、東京ディズニーランドの3.11の対応策です。
東京ディズニーランドを例にとると防災訓練の実施回数が圧倒的に違います。
災害対策の本質は意識だと私は考えます。「どのような状況に陥ったとしてもお客様を不安にさせない」・「どのような状況でも社員・家族を守る」この意識に尽きると思います。
この環境を作っている組織がBCPをためらう事なく発動します。
つまり、経営層・管理職がいかに危機意識をもち、会社をどうしたいか見つめ直し、社員教育を継続的に実施しているかが重要になります。
プロフィール
元消防士であり、防災資格を3種持つ(防災士【登録No.136593】、防災危機管理者【認定番号.190805】、危機管理士2級(自然災害)【登録番号N-19014】)防災のエキスパート。
災害によって失われる、人、物、時間、思い出への被害を軽減するために、必要な物を必要な形で提供するプロ。