熊本地震以降、九州各地の病院で進むBCP策定の状況について、総務省九州管区行政評価局がまとめた災害拠点病院の事例から学びます。災害拠点病院以外の病院でも、停電時の対策など、設備面でのBCP対策に力を入れているようです。
熊本地震以降、九州ではBCPの策定が各病院で進んでいます。災害拠点病院では地震後、BCPにどのように取り組んでいるのか、九州の災害拠点病院の取組をまとめた「総務省九州管区行政評価局」資料(2018年10月)の事例からみえることをテーマ別にまとめました。
熊本地震が発生した際、救命救急業務の司令塔であるセンター長及び部長医師が、県及び市の災害医療コーディネーターとして市の対策本部に参集。そのため、一時的救命救急業務を指揮するものが不在に。この経験を踏まえて指揮命令系統を見直し、災害時に司令塔となる者が不在になることがないようにBCPの整備を図った。
災害発生時に職員がスムーズに行動できるように「ポケット版大規模災害対応マニュアル」を作成し、職員が常時携帯するように徹底。災害発生時に自分が何をすべきか、緊急初期対応、自活電気設備等の基本情報、行動フロー図などがまとめてあり、災害発生後2時間までに行うべき行動基準が明確になった。
院内工事に伴う全館停電の機会を活用して、人工呼吸器や人工透析器など、非常時も稼働が必須となる医療機器に自家発電設備から電力が供給されるかを検証。災害対策本部が設置される部屋に非常時使用できるコンセントや照明がないこと、情報収集に必要なテレビが使用できない状態になっていることなどが把握された。浮かび上がった課題については、改修工事を含めた改善対策によって解消を図った。
災害時の電力復旧までの期間は3日以内と想定していたが、電力会社に確認したところ一般的に3日以上かかることもあることが発覚。非常用発電機運用に切り替わってから3日を待つことなく、補充用重油の手配及び、毎日の補充を行うために準備を行うこととした。
全職員を対象として、BCPの概要、部門ごとの役割、行動内容等について、4回に分けて研修を実施。研修を欠席した職員には、超過勤務にも配慮して研修内容を撮影したビデオ研修を行った。新入職員、中途採用者を対処としたBCP研修会も実施している。
事務部門のみを対象としたライフライン設備の障害復旧を目的とした訓練を実施した。具体的な内容は、ライフラインの状況確認や停電により電子カルテが使用できない場合の患者情報の把握、入院患者や外来患者へ対応、報道記者への対応など。緊急時に対応しなければならない内容が多岐にわたることを再認識することができた。
BCP対策が法的には義務付けられていない災害拠点病院以外の病院は、BCPにどのように取り組んでいるのかについて、設備面をメインにまとめました。
非常用電源に容量不足の不安があったため、LPガス式発電システムを導入。これまでバックアップされていない箇所も含めて2日以上をカバーすることができるようになった。石油ガス災害バルク等の導入では、補助金も活用できた。
災害時の長期停電でも72時間は電力を確保したいため、非常用電源をリニューアル。災害発生時、15秒間の停電も許されないオペ室や分娩室だけでなく、電気メスや内視鏡システムなどへの電力の確保が可能となった。
LPガス式発電システムを導入することにより、エレベーター、分娩室、手術室、ナースステーション、新生児室などの電源をバックアップすることが可能となった。長時間停電時でも40時間は電力が確保できるように。
東日本大震災、熊本地震の発生により、安全なお産を守るためには、本格的な停電対策が大切であると感じていた。プロパンガスを使った自家発電システムを導入することにより、分娩に必要な箇所に3日間以上の電力をバックアップすることができるようになった。また、井戸のポンプに電力を供給することで、生活用水の確保も可能となった。
設備のプロ
池田道雄
池田商会
現在、医療施設からの問い合わせの多くは、3日以上病院機能を維持できる非常用発電設備です。
その際に、カバーしたい電気設備で必ず挙がるのは、救急診療に必要な医療設備(特に電子カルテ)、給排水ポンプ、空調、照明です。
しかし、増築を重ねたような医療施設では、正式な図面がなかったり、電気系統が複雑だったり、供給すべき電気設備の老朽化に伴う整備が必要など、単純に発電機を設置するだけとはいきません。
結果的にコストの問題がほとんどで、
いかにコストを抑えて効率的かつ効果的に災害対策を実施するかを一緒に考えていく流れとなります。
プロフィール
BCPマニュアル策定、BCP設備設計、設備供給、施工管理、補助金申請代行を一括して引き受ける。非常用電源においては、災害時に少なくとも72時間以上の持続可能なエネルギー供給対策を考案・提供。
防災のプロ
髙木 敏行
(株)かんがえる防災
ソフト面に関しては、BCPや防災マニュアルを作成している医療機関が増えているように感じます。
しかし、地震のような突然発生する災害に対する
初動対応マニュアルやアクションカードを作成していない医療機関が多いのもの事実。
災害対応は初動対応が最も重要です。
初動対応でつまずけばその後の活動が後手後手になります。
また、勤務中に発災すると家族の安否確認など家庭の状況を知る事が容易ではない状況になることが予想できます。家庭の備えについても今一度見直して頂きたいです。
プロフィール
元消防士であり、防災資格を3種持つ(防災士【登録No.136593】、防災危機管理者【認定番号.190805】、危機管理士2級(自然災害)【登録番号N-19014】)防災のエキスパート。
災害によって失われる、人、物、時間、思い出への被害を軽減するために、必要な物を必要な形で提供するプロ。