BCP対策のさまざまな事例を通して、BCP策定の苦労や悩み、気づきや今後の課題のほか、実際の非常事態への対応でよかった点などを企業規模や業種別に紹介、解説します。
公益財団法人 東京都中小企業振興公社が公開しているBCPの策定事例について、従業員規模別、業種別でまとめました。BCPの策定にあたって、事業継続のためにどんな対策をしているか、課題や感想、気づいたことや苦労した点などを参考にすることができます。
主な事業継続対策としては、データセンターの移設により、データの遠隔地保管やコンピュータリソースの別拠点の冗長化や優先復旧業務の選定、目標復旧時間の把握による顧客サービスの充実などがあげられている。
BCP策定での気づきや苦労した点については、少人数なのでいざというときになればすぐに対応できるという意見があるものの、被災時の具体的な手順のまとめが大変という意見も。
また、人員の代替ができないため緊急時の人材確保に苦労するという意見も挙げられている。さらに、策定していたBCP施策では、人に関わる内容がメインとなっており、サービス自体の継続への対策が希薄であることに気づいたという意見もあげられた。
人員の代替措置や本拠点以外の拠点の活用、サービスを継続するための機器の確保やそのための人員確保などが課題として挙げられている。また、事前準備が不十分であると、いざという時にさまざまな事を考え、判断することはできないであろうという感想も出されている。
主な事業継続対策としては、従業員や家族の安否確認、安全確保、設備の稼働確認、インフラの確保や顧客、関係者とのコミュニケーションなど。また、代表取締役社長を本部長とする災害対策本部体制の構築についてもあげられている。
BCP策定による気づきや苦労した点としては、業務の流れが細分化できていないことや策定する過程など、多くの点に不備があることに気づいたという意見がある。また、改めて従業員との問題共有の重要性、計画的BCPの継続、改善していくことの難しさに気づいたとの意見もみられた。
今後の課題としては、今回気づいた課題への対応、社内体制の整備、従業員とのコミュニケーションなどがあげられている。また、BCPの周知徹底が図られるような社内体制の整備やBCPの継続的なアップデートの必要性も課題であるとのこと。
全体の感想としては、BCPは策定で終わりではなく、そこから始まるBCPの継続こそが、社員の安心、事業の継続をもたらすものであると深く感じたという意見が見られた。
主な事業継続対策としては、顧客との交渉、下請け・協力会社、サプライチェーンへのできる限りの協力や複数のサプライチェーンの確保があげられている。また、本拠点で被害が発生した際、他拠点での代替生産の体制や代替業者との調整体制などを確立しているという意見も見られた。
BCP策定による気づきや苦労としては、社員の意識改革や製品ごとの代替え部品、材料の調達先の選定やBCPが策定された後のブラッシュアップに難しさを感じているという意見がみられた。
今後の課題としては、さまざまな災害を想定した準備が必要であるため、早急に進めていかなければならないとする意見がみられた。また、協力会社との連携や自社で賄えるインフラへの対応、電力補確保、代替生産設備の確保、技術の見える化など、課題が山積しているという意見も。
全体の感想としては、BCPは一朝一夕に作成できるものではないだけでなく、随時更新する必要があると感じたという意見があった。また、全てに対して準備することは不可能だが、どこまで準備できるかで復旧速度が大きく変わること、腹を括って資金を投入すべきか、など、悩みが深くなったという感想もあった。
主な事業継続対策としては、全社的に被害を受けていなければ、他事業所からの応援・サポートにより、事業損害を最小限にとどめる体制を確立しているという意見がみられた。また、代替拠点を設置し、平常時から緊急対策メンバーによる災害時事業継続計画書を充実させ、有事には計画書に則って行動できる体制を確保しているという意見も。
BCP策定による気づきや苦労としては、BCPは一筆書きでは通用せず、書き上げた後に二度三度と更新してようやく全体像が見えてくるという点があげられた。また、非常事態が長期化すれば、想定外のことが発生すると考えられるため、さまざまなパターンを検証する必要があるという意見もみられた。
今後の課題としては、誰がみてもわかりやすいBCPに改善することや就業時間外に発生した際の体制や連絡方法の確立があげられた。また、BCPに完成形はなく、継続的にブラッシュアップが必要であるという意見も。
全体の感想としては、全てが大切な業務であるが、資源が限られた場合には優先順位を付けざるを得ないことの重要性を改めて痛感したという感想があげられた。また、有事の際には業務のローテーションが可能となるよう、人員体制の強化などに備える必要があるという感想もみられた。
主な事業継続対策としては、非常事態発生時に別の営業が担当したり、営業への応援、被害にあっていない他の支店が対応したりするような体制づくりがあげられた。BCP策定による気づきや苦労としては、記入すること、つまり文書化することでやるべきことが明らかになったとの意見が。
今後の課題としては、他拠点間との連携をさらに図らなければならないという意見がだされた。全体の感想としては、考えるだけでなく紙面に書き起こすことで、やるべきことについて明らかになったことが良かったとのことであった。
主な事業継続対策には、複数の拠点の機能を24時間以内に復旧させる体制の確立や非常時の50%の人員確保、サーバーの保全等があげられた。また、24時間以内に販売管理システムや基幹システム系の復旧、維持が可能となる電力の確保という設備の備えの強化も。
BCP策定による気づきや苦労としては、職場が点在しており、従業員数が多いことから、災害時の影響範囲が広く災害想定が困難であること、BCPを社員全員に周知、実践することが困難であることなどがあげられた。
今後の課題としては、就業場所が分散する社員へのBCPの周知徹底、教育・訓練の実施、見直しなどのBCPサイクルの継続などがあげられた。
主な事業継続対策(新型コロナウイルス感染症対策)としては、対象者の特定や店内消毒、多店舗への応援要請などがあげられた。BCP策定による気づきや苦労した点は、店舗オペレーションの整理や経営資源の棚卸しなど、時間と労力を伴う作業があるということ。
今後の課題としては、BCPの社内周知方法や定期的案BCPの見直しがあげられた。全体の感想としては、事前にBCPを策定、周知の徹底を図ることで、従業員、取引先が安心して事業に取り組めることを痛感したという感想があった。
代行者による業務代行、他部署からの応援派遣、原材料のストック、協力会社や他の生産会社への代替生産依頼などが事業継続対策としてあげられた。また、従業員及び家族の安全確保や基幹設備の早期復旧、離れた拠点からの在庫バックアップ、非常用発電機の稼働などの体制整備も図られている。
BCP策定により、現時点では災害対策がほぼ何もなされていないことに気づき、BCPの必要性を改めて感じたという意見がみられた。また、既存の防災マニュアルと比較すると、細部にわたって検討する事項が多く、互換性を含めて作成に苦労したという意見も。
今後の課題としては、必ず定期的な訓練を実施することやトップ不在時の対応力強化、さまざまな状況を想定したうえでの練習やPDCAの繰り返しなどがあげられた。また、施設・設備や部品・材料の製造先、修理先一覧などのリストの整備も行う必要があるという声も。
BCPを策定してみて、多くの課題が浮き彫りになった、実際の場面を想定した演習を行うことで必要なことが可視化できたという感想がみられた。
リモートワークの実施やPC予備機の確保、在庫製品の使用や他外注先からの仕入れなどを主な事業継続対策としてあげていた。また、ローテーションによる勤務や余剰在庫の確保、競合他社との協力をあげている企業も。さらに、緊急時でも受注体制を確立するためにインフラの復旧や得意先への納品体制の確立を図っているという意見もあった。
BCPを実際に策定してみて、早急に解決策を検討しなければならない課題を明確にすることができたという意見や、シミュレーションすると作成したBCP通りに全く進まないことが認識されたという意見もだされた。
今後の課題としては、施設・設備の安全対策、社内備蓄品の強化のほか、教育や訓練を継続的に実施し、緊急時に対応できる体制を確立することなどがあげられている。
BCPは作成して完了となるのではなく、演習や定期的な見直しを継続的に行い、ブラッシュアップすることが重要であることを痛感したという感想がみられた。
代行者による業務の継続や代替原料による製品加工、電源、水源の確保などが事業継続対策としてあげられている。また、液体掃除機などによる排水や冷蔵機器が故障した場合の温度管理、蓄電池の利用など、設備面での対策を図っている企業もある。さらに、複数箇所に物流倉庫を設置して有事に備えているところもみられた。
BCPを策定してみて、その目的の本質は自社事業を理解し直すということだと気づいた、という意見がみられた。また、少人数企業の場合は各自に業務が分散しているため、一部が欠けた際に事業を継続させる方法を判断することが難しいという声も。
トップ不在でもBCPを実践できる組織体制の確立や人、チームによる代替案を考察しにくい案件への対応、電源、水源の確保などが今後の課題としてあげられている。また、BCPは策定だけでなく、実践できる体制にもっていくことが目的であることを強く感じたという感想がみられた。
主な事業継続対策として、業者委託によるネットワーク復旧、テレワーク、被害が少ない拠点での早期復旧及びどの拠点でも難しい場合は、別箱を借用しての作業継続などがあげられている。また、設備面では、非常用発電機や予備PC・携帯の確保、応援要請に加え、ポケットWi-Fiやテザリング活用による通信環境の確保などをあげている企業もある。
BCP策定により、災害等発生時の優先事項や所内の不足物資・資源を確認する必要があること、自社がどのようなリスクを抱えていて、そのリスクを回避するためにどのように備えるべきであるかについて改めて認識したという意見がみられた。また、非常時をイメージしながら策定したが、イメージするだけで疲労したという声もあった。
今後の課題としては、実効性があるものとするため、訓練や見直しを定期的に行う必要があること、全ての社員が等しくBCPに関する知識や行動様式を身に付ける必要があることなどがあげられている。
BCP策定及び、定期的案ブラッシュアップにより人命や会社を守ることができるのであれば、そのようなことに時間や費用を割くのも悪くないという感想もみられた。
BCPに取り組み、備えていたからこそよかったと思えることについて、実際に東日本大震災や熊本地震に対応した企業の事例を紹介します。
三陸南地震、岩手・宮城内陸地震など、多くの震災を経験していたこともあり、東日本大震災以前からBCPに着手していた。特に燃料インフラ整備に力を入れており、緊急時でもLPガスの共有を絶やさないことで地域を守ることがモットーに。
LPガスの非常時供給ルートの確立や設備復旧にあたるスタッフの確保、車の確保や備蓄しているLPガス発電機の活用など、さまざまな体制を確立していた。そのため、東日本大震災当日でもBCPをもとに滞りなく活動することが可能に。備蓄していた飲料水や非常食、石油ストーブなどは、従業員とその家族、地域の支えにもなった。
BCPは毎年見直しており、積極的に改善活動を行っている。経済産業省の補助事業を活用し、大型発電機やLPガスディスペンサーなど、設備面のさらなる充実を図るとともいの、年2回の訓練も欠かさずに実施している。
災害復旧も手掛ける工務店にとって、BCPは自社事業の継続だけでなく、社会インフラの整や備被災住宅の復旧にも大きく関わってくる。この工務店は台風を想定し災害対応力を強化してきたことで、熊本地震にも迅速かつ的確に対応することができた。
前震発生後、1時間程度でほぼ全員が会社に参集を完了。台風上陸による被害が多い九州では住宅被害も多く発生することから、十数年前から自社で災害対策マニュアルを作成するなどの対策に取り組んできた。
中小企業ではあるが、災害発生時には災害対策室を立ち上げることを決めている。その基準は「住宅被害が発生しそうなレベル」。この時点で、子どもを持つ母親などを除いて全員が会社に集まることがルールになっている。日常的に緊急連絡をメールやLINEで行っているため、社員の安否確認だけでなく、2,000件以上にのぼる顧客(住宅オーナー)全てにも電話を掛けることができた。
新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延により世界経済は大きな影響を受けており、感染症を理由として廃業や事業縮小に迫られた企業も少なくありません。今後も別の感染症によるリスクが高まる可能性もあることから、感染症対策BCPの参考となる事例を紹介します。
ぐるなびなど、日常の消費領域に関するサービスを幅広く提供している会社であり、従前より感染症対策に注力している。平常時の感染症予防対策として、月最低2回は社内およそ120か所の会議室のテーブルやドアなど、手が触れる場所を中心に消毒を実施。
肌が弱い人や妊婦などへの配慮から、消毒液は自然由来のものを使用するほどの徹底ぶり。自席や会議室の消毒作業は業者に頼ることなく、従業員で行うことにより衛生への意識を高めている。おおがかりな対策としては、他社が提供する室内で接触する全ての面を抗菌コーティングするサービスを利用。ナノレベルの細かな抗菌剤の粒子で室内全体を抗菌仕様にしている。
パンデミック対応も重要な課題としており、大々的な流行により混乱を招きかねない未知のウイルスの感染症対策を特に重視している。今後は、既に取り組んでいる感染者発生率の統計を対策に活かすつもりである。
高度な技術により、半導体などの被加工物を切断、切溝を加工する装置などを取り扱っており、そのシェアは世界の約8割。過去、1部署で10人以上が季節性インフルエンザに感染した経験から、国内でいち早くBCPの構築に着手。特に感染症に対する危機管理に力を入れている。
日常的な感染症対策として、従業員は出社前に体温を送信。37.5℃以上の場合は、部門長やBCM推進チームなどの関係者員にメールが自動的に配信されるアプリを活用している。また、解熱して出社した場合は、10日間は社内でピンクのマスクの着用義務が。ピンクマスクの者と一緒に会議する場合は、出席者も全員マスクを着用しなければならない。
徹底した消毒作業で二次感染を防ぐとともに、通常のマスクは全社員の3か月分に相当する60万枚を準備。また、BCP策定プログラムのひな型を活用して、月に1回無料でサプライヤー拠点における活動を実施する取組も行っている。
設備のプロ
池田道雄
池田商会
弊社に相談があり、設備を導入した事例をいくつかご紹介します。
「学校」避難所となる体育館に停電しても空調が使える状態にするには空調設備業者に相談しても、空調設備と同額以上の発電設備が必要になり、「採算が合わない」と言われ、あきらめかけていた時に、弊社から小型発電機内蔵のガス空調を提案し、発電設備無しで体育館に空調設備を導入することができました。
「障害者施設」約70床で近くに断層が走り、孤立しやすいエリアに位置する障害者施設でした。
避難所に避難しにくい障害者と近隣住民を守るために、72時間以上の電力確保(給排水ポンプ、空調含む)、調理設備を稼働させるためにLPガス発電機を導入しました。
「駐車場収容台数600台以上を持つ商業施設」地域貢献のために駐車場及び施設を災害時に開放、避難生活の長期化に耐えうる災害対策施設として、設備の経済効果にも優れ、災害時に燃料の確保が比較的しやすく、備蓄においても劣化しにくいLPガス発電機及びガス空調を導入しました。
プロフィール
BCPマニュアル策定、BCP設備設計、設備供給、施工管理、補助金申請代行を一括して引き受ける。非常用電源においては、災害時に少なくとも72時間以上の持続可能なエネルギー供給対策を考案・提供。
防災のプロ
髙木 敏行
(株)かんがえる防災
被害は発生していませんが、従業員400名、敷地面積20,000m²の製造工場でBCP研修・工場火災・浸水対策・帰宅困難時の研修会を実施しました。
担当部長の防災意識が高いこともあり、社内全体で災害対策に取組み、3ヵ年計画で組織の災害関係マニュアルの改正・社員研修・防災訓練を実施するようになりました。
更にこの企業の素晴らしいことは、自治体との連携を視野にいれ、自社の敷地を活用し近隣住民の避難場所にする計画もあるとのことでした。
企業価値が問われる時代に、防災の観点から地域へアプローチしている良い例ではないでしょうか。
プロフィール
元消防士であり、防災資格を3種持つ(防災士【登録No.136593】、防災危機管理者【認定番号.190805】、危機管理士2級(自然災害)【登録番号N-19014】)防災のエキスパート。
災害によって失われる、人、物、時間、思い出への被害を軽減するために、必要な物を必要な形で提供するプロ。