近年の大規模な自然災害や新型コロナウイルスの影響などで、BCP(事業継続計画)が推進されています。2024年には介護業界でもBCPの策定が義務化されるため、対策を進める必要があります。各自治体における「簡易版BCP」の事例を紹介するので、参考にしてみてください。
BCPは「Business Continuity Plan」の頭文字で、日本語にすると「事業継続計画」となります。BCPとは、地震や台風といった近年の大規模な自然災害や、テロ、取引先の倒産、新型コロナウイルスのような未曾有の事態などにおいても、重要な業務が継続できるように方策などを計画しておくことです。
令和3年度の介護報酬改定では、介護業におけるBCPの策定が義務づけられ、3年間の経過措置期間を経て2024年から義務が発生します。
しかしながら、2019年度版の「中小企業白書(中小企業庁発行)」によると、中小企業でBCPを策定しているのは全体の16.9%に留まり、従業員規模が小さいほど策定割合は低い傾向にあります。その原因は、人手不足やBCPの内容が複雑でハードルが高いなどと言われています。
こうした状況を踏まえ、大阪府をはじめ各自治体が、最低限決めておくべき項目にしぼりこんだ「簡易版BCP」を作成するようになりました。簡易版BCPを活用することで、容易に事業継続計画を策定できるようになるのです。
大阪府では、令和元年度に「超簡易版BCP『これだけは!』シート(主に自然災害対策版)を作成。令和4年5月には、これまでに利用した企業の意見を踏まえてリニューアルしています。
特徴は、A3サイズの用紙1枚に記入または入力するだけで完成することです。所要時間の目安は40〜60分程度なので、人手不足に悩む中小企業でもすぐに着手できます。
さらに、完成したら出力して社内に掲出して防災やBCPへの意識を共有することも可能。名刺サイズの従業者BCP携行カードもあるので、持ち歩くこともできます。
埼玉県では、公式HPにおいてBCPに関する最新情報を随時更新するとともに、BCP作成フォーマットを提供しています。
このフォーマットは、BCP簡易様式「彩の国しごと継続計画」と
して作成され、安心宣言を活用した業種別の簡易なBCP様式や記載例を掲載。これからBCPに取り組む企業にとって、わかりやすく始めやすい内容となっています。
また、BCPの策定を希望する中小企業に対して専門家を派遣する、導入支援も行っています。
船橋市では、市内の中小企業のBCP策定推進のために、「船橋版簡易BCP策定シート」「船橋版簡易BCP策定手引き」を作成しました。市内に立地する企業が、その土地の災害リスクを認識して、簡単にBCP策定ができるように工夫されています。
市内24地区ごとに、地形や地質、人口の概要、津波・地震ハザードマップ、洪水ハザードマップ、防災関連施設、避難情報なども提供し、BCPへの意識を高めています。
また、大手損害保険会社4社との協定を締結し、BCP策定セミナーを行っています。希望する事業者は、個別に策定支援が受けられます。さらに市内にある事業者には、締結4社による無料の相談窓口なども開設しています。
大手建設業の鹿島建設では、協力会社向けに「簡単につくれるBCP」を作成し、マニュアルと記入例を見ながら作成用ひな型の空欄を埋めるだけで、必要最小限のBCP策定ができるようにしています。
これは有事の際に、建設業が社会インフラや建物の復旧活動にスピーディに対応することが求められていることを認識した上での対策であり、協力会社の手間と時間を省くための提供です。
また自治体などの簡易版BCP策定シートの多くが、建設会社に適さないことから、独自に作成しています。2次以降の協力会社にも、BCP策定を促すよう要望しています。
大きな災害や突発的な事件・事故などは、いつ起こるかわかりません。そして、起こってからでは遅いのがBCP策定です。有事の際にでも、早急に復旧できるよう、最低限の準備は必要不可欠です。
2024年には介護業においても義務化となりますので、早目にBCP策定に取りかかりましょう。
いざという時に備えるためにも、まずは簡易版BCPから取り組み、設備や耐性の見直しを考えるきっかけにしてはいかがでしょうか。