CSRとBCP対策は重要な関連性をもっています。この記事では、CSRについての解説と、BCP対策がCSRにもたらす影響などに加え、CSR活動の一環としてBCP対策を行う実在企業2社の事例を紹介します。
CSRとはCorporate Social Responsibilityの頭文字をとったもので、日本語訳では「企業の社会的責任」とされています。企業の社会的責任とは何かといえば、企業が活動する社会に対して果たすべき責任や貢献です。この責任は誰かにいわれるものではなく、企業自身が積極的に取り組むべきものと考えられています。
もう少し具体的にいえば、企業がその事業活動を通じて社会に及ぼす効果や影響に責任を負うことです。ただし、日本企業の中ではCSRについて必ずしも共通した解釈があるとはいえない状況で、CSRの認識には幅の広さがあるとも考えられます。
CSRが注目される背景には、グローバル化する社会にあって企業の不祥事が後を絶たない現状があります。これまでは国内で何とかなるといった姿勢でもよい部分があったかもしれません。しかし、インターネットやSNSの発達で世界中から注目を浴びやすい環境になったことで、日本企業や日本製品に何かあれば業種や製品に限らず、"日本のサービス"に対する印象に影響が出てしまうため、社会に対する責任を考える視点が強化されたといえるでしょう。
厳しい目を向けられることへの対策として考えると消極的な意味合いが強くなりますが、積極的に責任を果たすことで結果的に温かい目を向けられると考えることこそが本筋だといえます。
CSRにとってBCP対策は重要な位置を占めているといえます。BCP、つまり事業継続計画は企業が緊急事態に直面したときに備える事業継続のための計画です。BCP対策を行うことで、危機的状況の中でも資産や企業への損害を抑えメインとなる事業を継続・回復させることは、地域社会や国全体の回復力にもつながります。
自然災害の多い国であることを踏まえて作られた「国土強靭化計画」において、企業の回復力に期待が寄せられていることからも、BCP対策がCSRの1つであるといえるでしょう。
BCP対策を行うことで、潜在的な緊急事態への備えが出来ている企業だと認識されれば、ステークホルダーから高い評価を得られます。その理由は、BCP対策がいざというときには回復力を発揮して社会を支える存在になる企業、CSR的にも優良な企業であることを示すものだからです。
企業の従業員は所属する企業がBCP対策をしっかりと行うことで、CSRの面でもよくやっていると感じられれば自分もその一員として社会的責任を果たしている、社会に貢献できているという達成感をもちやすいといえます。
従業員にとっては直接的な社会貢献をしていなかったとしても、企業に貢献することが結果的に社会貢献にもなる状況です。その結果、理念やビジョンへの理解と企業への信頼、積極的な貢献意欲を要素とする従業員エンゲージメントが向上し、企業の発展によい影響をもたらします。
BCP対策をしっかりと行っている企業は、事業継続や防災を目的とした施設などを整備する費用の融資を有利な条件で受けられます。たとえば、レジリエンス認証を取得すると日本政策金融公庫の社会環境対応施設整備資金(BCP融資)を借りたい場面で、要件確認書の発行が可能です。レジリエンス認証には企業の事業継続による社会の強靭化を推進する目的があり、BCP対策がCSRに役立っていることがわかります。
CSRとしてのBCP対策事例を、日本でも有数の企業である東レとタカラトミーの2社について紹介します。
東レではグループとして2018~2020年度の第4期に、大規模地震に対するBCPを継続的に整備し、見直しをしています。BCPの本旨に沿って行われる避難訓練や耐震改修の計画的な実施などが主な実施内容です。個別の製品に着目した「個別製品の地震重要製品BCP策定要領」をもっており、重要製品のBCPを運用している点は興味深いといえるでしょう。
また、全社対策本部設置訓練を2012年度から継続しており、大規模地震の発生に備えています。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行による在宅勤務の拡大を想定した、初動対応をオンラインで実施する訓練を行うなど、積極的な取り組みを多数公式ホームページなどで紹介されています。
参照元:東レ公式(https://www.toray.co.jp/sustainability/activity/riskmanagement/bcp.html)
東レは独自に整備した「風水害対策チェックリスト」を活用し、2020年度から国内関係会社も含めた製造拠点の風水害対策を再点検しています。近年でよくみられる台風や大雨による被害が背景にあるようです。また、2021年度には再点検の結果から判明した課題を踏まえて施策を見直し、水災に対するBCPを策定することや、海外製造拠点の水災発生リスク調査を実施する予定としています。
参照元:東レ公式(https://www.toray.co.jp/sustainability/activity/riskmanagement/bcp.html)
タカラトミーグループはBCPの基本方針として4つの項目を置いていますが、その中で従業員とその家族の命の安全を最優先に守ることを1番目に掲げています。人命重視の具体的な取り組みの例としては安否確認システムを導入し、早急な従業員と家族の安否確認ができる体制を整備しています。さらに、防災訓練や備蓄品の配布を通じて個々の従業員が有事に際して適切に動ける基礎づくりを行っている点も見逃せません。
2020年の新型コロナウイルス感染症拡大に対しては、リモートワークを全社レベルに適用することで、従業員が継続して働ける体制を作りました。
参照元:タカラトミー公式(https://www.takaratomy.co.jp/company/csr/organizational_governance/bcp.html)
物流機能の継続性確保を重要課題として位置付けるタカラトミー。タカラトミーマーケティングでは、マテハン(物流拠点内におけるモノの移動システム全般)の機能強化などに加えて社内横断プロジェクトの発足、BCPの見直しを進め社内研修の実施など取り組みを推進しています。
参照元:タカラトミー公式(https://www.takaratomy.co.jp/company/csr/organizational_governance/bcp.html)
全国に店舗をもち多数の従業員が働いているキデイランド。タカラトミーでは、大規模災害時に交通機関がマヒするなどキデイランドの店舗を取り巻く状況を想定したBCPを策定し、お客と従業員の安全確保などが適切に行えるように準備をしています。
参照元:タカラトミー公式(https://www.takaratomy.co.jp/company/csr/organizational_governance/bcp.html)
東レグループやタカラトミーなどの各事例を見ると、取引先としての信頼度が向上するのはもちろんのこと、従業員や従業員の家族の目線で見た時の帰属意識も向上することが推測されます。
本来であれば、大きな災害やコロナ禍のような異常事態は国の助けによって改善・回復を目指せるものだと思いますが、コロナ禍で見て来たように一つの法案や対策を決めるとしてもなかなか進まず、その間に数々の企業が倒産の危機に苦しみました。
生活に不可欠なエッセンシャルワーカーやその企業であっても、資産や会社保持の補償がされない中で、BCP計画書を作成し企業の社会的責任(CSR)を果たせる体制を作っておくことは必須となりつつあります。