要介護者やその家族にとって、介護サービスは生活を支える上で欠かせないものです。感染症拡大による制限下にあっても、継続的なサービス提供が求められるため、感染防止対策の徹底を行う必要があります。
そのためには業務継続のための計画(BCP)の作成が重要となり、平常時から準備や検討をしておくことが必要不可欠です。
厚生労働省が作成している、感染症発生時のBCPガイドラインについてわかりやすくまとめた「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」について解説していきます。
BCPとは「業務継続計画」の意味です。感染症や大地震などの災害発生時には通常業務は難しくなりますが、業務が滞れば困る人たちが出てきます。感染症の発生や災害時でも業務を中断させないよう準備し、中断した場合でも優先すべきことを実施するのがBCP対策となります。
BCPと感染症対策マニュアルの違いを、下の表にまとめました。
内容 | BCP |
感染対策マニュアル
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---|---|---|---|
平時 | ウイルスの特徴 | △ | ◎ |
感染予防対策(手指の消毒方法、ガウンテクニック等) | △ | ◎ | |
健康管理の方法 | △ | ◎ | |
体制の整備・担当者の決定 | ◎ | △ | |
連絡先の整理 | ◎ | △ | |
研修・訓練 | ◎ | 〇 | |
備蓄 | ◎ | 〇 | |
感染(疑い)者発生時の対応 | 情報共有・情報発信 | ◎ | 〇 |
感染拡大防止対策(消毒、ゾーニング方法等) | △ | ◎ | |
ケアの方法 | △ | ◎ | |
職員の確保 | ◎ | 〇 | |
業務の優先順位の整理 | ◎ | × | |
労務管理 | ◎ | × |
※引用元:厚生労働省老健局 | 介護施設・事業所における新型コロナウィルス感染症発生時の業務継続ガイドライン(https://www.mhlw.go.jp/content/001073001.pdf)
新型コロナウイルス感染症と大地震などの自然災害では、被害対象や期間などが異なります。そのため重要なことは以下の3点となります。
感染症の流行影響は予測が困難ですが、スタッフや入所者、利用者への感染リスクや業務継続の社会的責任や施設を運営していくための収入確保などを踏まえた業務継続レベルを判断しなければなりません。そのためには正確な情報を収集し、その都度的確に判断をする必要があります。
設備やインフラに甚大な影響が出る自然災害と異なり、感染症は人への影響が大きくなります。職員であっても感染するため、感染拡大時の人員確保対策を検討しておくことが重要です。
感染症は人に対する影響が大きく、スタッフに感染が広まると業務継続が難しくなります。人員確保に加え、感染症が拡大しないための防止策についても平時から検討し、適切に実施していくことが大切です。
項目 | 地震災害 | 新型コロナウイルス感染症 |
事業継続方針 | できる限り事業の継続・早期復旧を図る サービス形態を変更して事業を継続 |
感染リスク、社会的責任、経営面を勘案し、事業継続のレベルを決める
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被害の対象 | 主として施設・設備等、社会インフラへの被害が大きい |
主として人への健康被害が大きい
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地理的な影響範囲 | 被害が地域的・局所的 (代替施設での操業や取引事業者間の補完が可能) |
被害が国内全域、全世界的となる
(代替施設での操業や取引事業者間の補完が不確実) |
被害の期間 | 過去事例等からある程度の影響想定が可能 |
長期化すると考えられるが、不確実性が高く影響予測が困難
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被害発生と被害制御 | 主に兆候がなく突発する 被害量は事後の制御不可能 |
海外で発生した場合、国内発生までの間に準備が可能
被害量は感染防止策により左右される |
事業への影響 | 事業を復旧すれば業績回復が期待できる |
集客施設等では長期間利用客等が減少し、業績悪化が懸念される
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※引用元:厚生労働省老健局 | 介護施設・事業所における新型コロナウィルス感染症発生時の業務継続ガイドライン(https://www.mhlw.go.jp/content/001073001.pdf)
介護施設へ入居・利用している人は、健康面や身体能力の面で支援がなければ生命が脅かされます。そのため介護施設は感染症拡大時であっても業務を継続できるよう、事前の準備をしっかり実施しておくことが重要です。通所事業所であっても同様に業務継続できるよう努め、万一業務縮小や閉鎖を余儀なくされる場合でも、利用者が困らないよう事前に検討を進めなければなりません。
介護保険サービスを利用している人は、65歳以上の高齢者および40歳以上の特定疾病のある人です。感染すれば健康な人に比べ重症化リスクが高いため、利用者の安全確保のための感染防止策を事前に検討し、確実に実行できるようにしておく必要があります。
感染症の拡大時には職員も感染リスクがあります。長時間勤務や精神的な打撃なども加わり、過酷な労働環境となる懸念が出てきます。労働契約法第5条(使用者の安全配慮義務)の観点からも、職員の感染防止対策に加え、過重労働やメンタルヘルスへの適切な措置も責務となります。
感染症BCPの作成には5つのポイントがあります。各ポイントごとに説明します。
施設・事業所内を含めた関係者とスピーディに情報を共有し、速やかに役割分担や判断ができるように体制を構築します。情報収集・共有体制、情報伝達フロー、関係者の連絡先、連絡フローの整理が重要となります。
介護施設で感染者または感染疑いが発生した場合でも、入居者・利用者に対しては必要なサービス提供が求められます。感染(疑い)者が発生した際の対応について整理し、日頃からシミュレーションを行っておきましょう。
感染症拡大時には、職員が感染したり濃厚接触者となる場合があり、職員が不足することが考えられます。感染防止策を行った上で、施設・事業所内、法人内における職員確保体制を検討し、関係各所や自治体等への早目の応援依頼を行うことも大切です。
感染拡大時には人員確保の対策をしていても、限られた職員でサービス提供を継続せざるを得ない場合も想定されます。可能な限り通常のサービス提供ができるよう、職員の出勤状況に応じて業務の優先順位を整理しておきましょう。
BCPを作成しても、実施できなければ意味がありません。計画を実行できるよう、日頃から周知・研修・訓練を行い、いざという時に迅速に行動できることが重要です。また最新の情報・知見なども踏まえ、定期的に計画を見直しましょう。
介護施設のサービスを必要としている人は、サービス提供がなくては生活が困難になります。感染症拡大時であっても、介護施設ができる限りサービス提供を継続できるよう、感染症BCPは早目に行っておく必要があるでしょう。ガイドラインを参考にして取り組んでください。
ただしBCPマニュアルの策定は専門的な内容もあり難しいものです。万が一に備えたサービス継続を行うためにも、専門家であるBCPコンサル会社にアドバイスをもらうのも良い方法です。